コラム

高齢者は社会のお荷物...日本化する中国の「敬老」

2023年09月18日(月)11時45分
周来友(しゅう・らいゆう)(経営者、ジャーナリスト)
高齢者

YARASLAU SAULEVICH/ISTOCK

<日本では、老人に対する人々の視線は決して友好的ではないと感じる。一方、中国は「敬老大国」と言われるが...>

私は紹興酒で有名な浙江省紹興の出身だ。今も多くの親族や幼なじみが紹興に住んでいる。一方、両親と妹一家は北京在住。この夏、4年ぶりに里帰りをした。

まずは7月、北京に戻った。軍医だった父は87歳で、母は84歳。独立した妹一家はそう遠くない場所に住んでいるが、両親はかつての職場の幹休所(退職幹部向け福利厚生住宅の「幹部休養所」)で2人暮らしをしている。

父は医者だけあって、耳が遠くなった以外は健康だが、母は2年前に転んで足が不自由になり、杖を手放せなくなった。両親はいわゆる「老老介護」状態だ。

帰郷すると両親はとても喜んでくれた。昔話に花が咲き、話題は両親の若かりし頃にも及んだ。

新中国成立間もない1953年からの軍医人生、66~76年の文化大革命、78年に始まった改革開放──中国現代史の荒波を生き抜いてきた世代だ。

それでも2人は常に互いを思いやり支え合ってきた。昔から変わらぬその仲むつまじい姿に、自分の親ながら思わず涙が出る思いだった。いつか家族の歴史を『ワイルド・スワン』のような本にまとめたいと思っている。

一方、8月には親族や友人に会いに紹興へ足を運び、93歳と91歳になる長老とも再会を果たした。父と母の姉、つまり私の伯母たちである。

うれしいことに2人とも元気だったが、気になったのは息子や娘ら家族が近くにいるのに誰も面倒を見ていないことだ。

孫が生まれたばかりの時は息子夫婦と同居し、働く息子たちに代わり、孫の面倒を見ていた伯母たち。それが昔ながらの習わしで、苦労しながらも「天倫之楽」(家族だんらんの楽しみ)を味わっていた。

ところが、一人っ子政策で生まれた孫は成人して結婚。やがてひ孫が生まれ、息子夫婦はその世話に追われるようになる。ひ孫が成長した頃には長年連れ添った伴侶も亡くなり、今では古い家にそれぞれ一人で生活している。

周囲の人々は、祖父母の面倒は見ても、曽祖母の介護をする余裕も気持ちもない。長生きは用なしだと思われる時代になってしまった。すっかり発展した紹興にもこうした孤独な老人が少なくないと聞く。

中国では老人を敬う伝統が根付いており、親孝行が美徳とされてきた。日本では電車やバスで高齢者に席を譲らない人が少なくないが、中国ではそんなことはまずあり得ない──そうした話を耳にしたことがある読者もいるだろう。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、総裁「状況は正しい方向」 利

ビジネス

FRB「市場との対話」、専門家は高評価 国民の信頼

ワールド

ロシア戦術核兵器の演習計画、プーチン氏「異例ではな

ワールド

英世論調査、労働党リード拡大 地方選惨敗の与党に3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 5

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 6

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 7

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story