コラム

ジャニーズ問題が日本社会に突き付けた、性教育とメディアの「タブー体質」

2023年06月15日(木)15時25分
西村カリン(ジャーナリスト)
ジャニー喜多川

YUICHI YAMAZAKI/GETTY IMAGES

<性犯罪の知識のない未成年を守るには、性教育をタブーにしないこと。そして被害者が日本のメディアではなく、海外メディアに求めた「信頼」の意味を考えるべき>

今年3月に放送された英BBCのドキュメンタリーのおかげで、多数のアイドルが所属するジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川の性犯罪疑惑が日本の大手マスコミでも報じられるようになった。

ドキュメンタリーを担当したBBCのジャーナリストが日本外国特派員協会で記者会見を開き、その後、被害者の2人も自身のつらい経験を語った。

彼らはジャニー氏のおかげでエンターテインメントの世界に入り、今もジャニー氏を尊敬していると話す。これは不思議なことではなく、性的な目的を隠して大人が未成年を手なずける「グルーミング」の結果だ。

ようやく今、ジャニー氏の「隠れた暗い姿」が見えるようになったが、たとえ証拠が出てきても本人は亡くなっているので、捜査、起訴、裁判といった流れにはならない(写真は2019年逝去時の報道)。

被害者にとって可能な手続きも限られている。それでもBBCの取材や被害者の証言をきっかけに、政治家なども動き始めた。

私はこの件をそれほど取材していないが、海外の記者の立場からと一個人的に考えたことを記してみたい。

まず、証言した元ジャニーズJr.の人々が、ようやく被害について話せるようになったのはとても良かったと思う。ただ、話さない、話したくない人もいるので、過剰な取材で無理やり告白させるリスクについては注意すべきだ。

権力のある大人と、弱い立場の子供や若者の間に危険な関係が生じること、性犯罪が起きることをどう防ぐか? 

小学校から子供の権利の教育と、性教育を行うことが大切だ。当時中学生だった元Jr.の彼らは強制的な性行為が何か分からず、犯罪であることも知らなかった。

ジャニーズ問題をきっかけに、学校現場での正しい性教育の必要性が広く理解されてほしい。親も子供に性被害とはどういうものかを教えないといけないが、多くの親はどうすればいいか分からず悩んでいる。これについては、自治体が専門家の知識を借りて親向けの講座を設ければいい。

同じような事件が再び起こらないように法律の面で何ができるか。児童虐待防止法改正を求める声があったが、今国会では見送られた。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ミサイル駆逐艦が台湾海峡航行、中国は警告

ビジネス

ECB、急激で大幅な利下げの必要ない=オーストリア

ビジネス

ECB、年内利下げ可能 政策決定方法は再考すべき=

ビジネス

訂正(7日配信記事)-英アストラゼネカが新型コロナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story