最新記事
南シナ海

エスカレートする中国の暴力──放水銃を浴びる船内映像をフィリピンが公開

China Water Cannon Attack Caught on Camera

2024年3月27日(水)19時35分
マイカ・マッカートニー

フィリピンの補給戦に放水銃を浴びせる中国海警局の船(3月5日、南シナ海) REUTERS/Adrian Portugal

<フィリピン補給船をアメリカ海軍が警護するなど新たな圧力が必要、という専門家も>

中国海警局が、フィリピン船に高圧放水銃で攻撃する様子を一人称視点のカメラで捉えた新しい動画が公開された。このフィリピン船は、領有権が争われている南シナ海の前哨拠点に物資を補給するミッションの最中だった。

【動画】中国放水銃の破壊力をフィリピン船内から映した新映像

この動画は、フィリピンの「GMAインテグレーテッド・ニュース」が公開したもので、隠れるところを求めて一目散に走る船員たちが写ったのち、高圧で放たれた水の奔流が、手すりを越えて船室に入り込んでくる様子がわかる。水が通った跡には、破壊された船体の木片が、山となって残されている。放水の合間には、タガログ語で「止めろ......これはひどい!」と叫ぶ乗組員の声も聞こえる。

3月23日早朝、フィリピンの補給船ウザイマ・メイ4号は、沿岸警備隊の護衛船2隻を連れて、交代人員と物資を運ぶ途中だった。行き先は、セカンド・トーマス礁に座礁させ、今は軍の前哨拠点になっている古い戦艦だ。船隊が近づいたところを、中国海警局と、いわゆる「海上民兵」から妨害行為を受けた。

国際的に認められた領海

中国はセカンド・トーマス礁について、南シナ海の大半と同様、自国の領土だと主張しているが、実際にはこの礁は、国際的に認められたフィリピンの排他的経済圏(EEZ)内にある。

フィリピン政府が公開した動画には、中国海警局側が、高圧放水銃でウザイマ・メイ4号に執拗な攻撃を加えている様子が写っており、時には2方向から同時に攻撃されている場面もあった。フィリピン政府は、木造船のウザイマ・メイ4号はこの攻撃によって航行不能になり、乗組員にも複数のけが人が出たと述べた。

フィリピンのニュースチャンネル「ニュース5」が報じた別の映像は、船の外側から損傷の程度を写している。例えば、船体の木製パネルは明らかに損傷しているほか、一部には完全に剥ぎ取られてしまっている部分もある。

この船は航行不能の状態に陥ったが、セカンド・トーマス礁に駐留するフィリピン軍海兵隊員は、複合艇(船底を硬質素材で強化したゴムボート)を使って、運ばれてきた物資や新たに着任する人員を回収したと、フィリピン政府は述べている。

中国政府は、この岩礁におけるフィリピン側のプレゼンスは違法だと主張している。

フィリピンは1999年、この岩礁の領有権を主張するために、かつてアメリカ軍の戦車揚陸艦だった「BRPシエラ・マドレ」をここに座礁させた。この状況について、在米中国大使館の劉鵬宇報道官は本誌の取材に対し、「中国の領土主権の重大な侵害」だと非難した。

劉は、フィリピン政府はこれまで複数回にわたり、老朽化したシエラ・マドレの撤去を約束したと言う。「だが20年以上が過ぎた今も、フィリピンの戦艦はいまだにあそこに留まったままだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、大麻規制緩和案を発表 医療用など使用拡大も

ビジネス

資本への悪影響など考えBBVAの買収提案を拒否=サ

ワールド

原油先物は堅調、需要回復期待で 週間ベースでも上昇

ワールド

ガザで食料尽きる恐れ、ラファ作戦で支援困難に=国連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中