最新記事
米政治

トランプ前政権を分析してわかった対中制裁「想定外の影響」...60%超の関税は実現不可能?

CHINA-US TRADE WAR 2.0

2024年3月9日(土)17時15分
ジャーチェン・シー
米中貿易戦争

ILLUSTRATION BY DILOK KLAISATAPORN/SHUTTERSTOCK

<トランプが返り咲けば「米中貿易戦争2.0」が本当に始まるのか。トランプの中国いじめは自身と共和党の命取りになりかねない。 本誌「もしトラ」特集より>

今年の米大統領選の共和党予備選で、ドナルド・トランプ前米大統領は快進撃を続け、指名候補の座は約束されたようなものだ(編集部注:3月5日のスーパーチューズデーにも勝利し、党内の対立候補ニッキー・ヘイリーが選挙戦から撤退した)。

余勢を駆って、彼は高まりつつある自身の影響力を、国際社会におけるアメリカの最大のライバル、すなわち中国にも見せつけようとしている。そのために最近の中国株の大暴落はアイオワ州の党員集会で自分が勝利したせいだと根拠もなく主張するありさまだ。

そんなトランプが政権に返り咲いたら、アメリカはこれまで以上に強硬な対中政策を打ち出すだろうか。その可能性はある。

選挙戦で反中国的な発言を執拗に繰り返しているトランプがホワイトハウスに戻れば、ジョー・バイデン米大統領が進めてきた対中デタント(緊張緩和)が覆されるのではないか──そんな臆測も飛び交い始めた。広く議論されているシナリオの1つは第2次米中貿易戦争が始まる、というものだ。

しかし、第1次米中貿易戦争の後遺症と、それが共和党内にもたらした想定外の影響を詳細に検討すれば、また違った景色が見えてくる。

孤立主義者と見なされているトランプが臆面もなく貿易政策を武器にするのは皮肉な話だ。対中貿易戦争はアメリカに恩恵をもたらしたとトランプは自賛するが、実際にはデメリットのほうが大きかった。

トランプの意図とは裏腹に、中国からの輸入品に高関税をかけても米製造業は拡大せず、対中貿易赤字は縮小しなかった。懲罰的な関税の打撃を被ったのは米企業と消費者のほうだ。中国から輸入する原材料や部品が値上がりしたため、米企業の製造コストは上がり、国際競争力は低下した。

さらに悪いことに、中国はアメリカ産農産物の輸入を停止し、米製品に報復関税をかけた。これにより米製造業の下流の企業は一層苦境にあえぐことになった。どう見ても対中貿易戦争はアメリカにとってマイナスだ。米経済に与えた年間の純損失は160億ドルと見積もられている。

トランプが大統領に返り咲けば中国製品に60%超の関税を課す可能性があると、最近ワシントン・ポストが伝えたが、第1次貿易戦争で25%の関税が米経済にこれほどの大打撃を与えたのだから、それはまず考えられない。

貿易戦争の再開が米経済に打撃を与えても、トランプはどうにか支持をつなぎ留めるかもしれないが、共和党に及ぶより広い政治的ダメージは克服し難いだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中