世界がまだ気付いていない「重大リスク」...イスラエルとヒズボラの「戦争が迫っている」と言える理由
The Inevitable War
それでも、イランがヒズボラへの手綱を緩める可能性は十分にある。ヒズボラ指導者のハッサン・ナスララが1月初めに明言したように、イランは中東における武装組織のネットワーク「抵抗の枢軸」の育成に膨大な時間とリソースを投じてきた。
この枢軸には、ヒズボラ以外にイスラム組織ハマスもいる。イスラエルはハマス指導者を捕捉、殺害し、同組織を無力化する決意を固めている。
そうなる可能性が現実味を帯びれば、イランとしてはハマスの敗北を受け入れるより、ヒズボラへの制約を解き放つ可能性が高い。そのXデーは近づいているように思える。
機能しない米議会の罪
イランがヒズボラを抑え込んでいたとすれば、イスラエルについて同様の役割を果たしてきたのはアメリカだ。米バイデン政権はガザ戦争の勃発以来、2つの点について一貫した姿勢を取ってきた。1つは、ハマスは敗北しなくてはならないということ。もう1つは、ヒズボラとイスラエルの戦争は回避しなくてはならないということだ。
ジョー・バイデン大統領はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対し、レバノンを戦争に巻き込まないようクギを刺してきた。米政権は、ヒズボラとイスラエルの間に戦争が始まって中東全域に飛び火すれば、アメリカとイランの軍事衝突は不可避だと考えている。
バイデン政権の懸念はもっともだが、イスラエル北部のレバノンとの国境地帯への対処についてアメリカの影響力は衰えている。イスラエルではガザ戦争の拡大と対ヒズボラ情勢で、北部から約8万人の住民が避難している。イスラエルから見れば北部はもはや住む場所ではなく、主権さえ脅かされている。強硬措置を取るのは、誰が政権を担っていようと同じだろう。
ガザ戦争で手いっぱいのイスラエルは、アメリカとフランスが主導する外交努力を渋々ながらも検討する姿勢を見せてきた。だが、イスラエルとヒズボラの双方を満足させる提案は示されていない。
イスラエルはヒズボラに対し、2006年に採択された国連安保理決議1701に基づき、イスラエルとの国境から約30キロ離れたリタニ川まで退避するよう要求しているが、ヒズボラはこれを拒否している。一方のヒズボラはイスラエルが国境地帯の部隊を縮小することを望んでいるが、これも実現の見込みはない。
時間ばかりが経過するなか、外交努力に効果がないことが露呈しつつある。