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高級官僚のポストを「倍増」し、与党幹部の親族に「ばら撒き」...世襲大国カンボジアの罪

Cambodia’s Elite Inflation

2023年9月7日(木)18時16分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)
カンボジアのフン・マネット首相

プノンペンで初閣議に臨むフン・マネット首相(23年8月24日) TANG CHHIN SOTHYーPOOLーREUTERS

<長男を後継の首相とするために、フン・セン前首相は権力の大安売りで省庁の次官・次官補級ポストを倍増したが...>

アジアの国には世襲が似合う──のだろうか。1985年1月から38年にわたりカンボジアを治めてきたフン・セン首相は、7月23日の下院選で与党カンボジア人民党(CPP)を(野党を弾圧して)圧勝に導いたが、直後に首相の座を45歳の長男フン・マネットに譲ると表明した。

そして実際、8月22日には新議会が粛々とフン・マネットの首相就任を承認した。さて、この世代交代は何を意味するのか。あの国は昨日よりも寛容で民主的な社会になるのだろうか。

予断は禁物だが、同国のジャーナリスト協会(JA)が運営する英文ニュースサイト「カンボJAニュース」が8月23日付で興味深い情報を載せていた。なんと、新内閣では各省庁の大臣より下の長官(次官)、副長官(次官補)級ポストが2倍以上に増えるという。その数は計1422、父の時代には641だったから、まさに激増である。

カンボJAによれば、「新設ポストの多くは与党幹部の親族に加え、今回の選挙前に与党側に転じた野党有力者や活動家、労働組合の幹部などに振り分けられた」らしい。

とんでもない「高級官僚の超インフレ」だが、実は今に始まった話ではない。93年に国連の監視下で総選挙が行われて以来、ずっと続いてきた慣行なのだ(あのときは日本も国連のPKO選挙監視団に加わっていた)。

選挙の結果、王制が復活したが、CPPのフン・センは「第2首相」の座を確保。以来、CPPはひたすら反対勢力を排除し、力ずくで黙らせる一方、与党側に寝返れば政府の要職を与え厚遇するという手法を取ってきた。だから選挙のたびに政府組織が肥大化し、高級官僚の数が増えた。

カンボJAの報道によると、今回はフン・センの盟友で2017年に死去したソック・アンの息子4人が要職に起用された。「ソック・サングバーは公共事業省の次官、ソック・プティブットは郵政省の次官、ソック・ソカンは国土整備省の次官、そしてソック・ソケーンは観光相」だ。

どうやら、これがカンボジア流の現代版世襲制らしい。そこでは権力の継承が法律や規則ではなく個人的な関係によって行われる。公務員は国民にではなく、その上司に奉仕する。公務員の給料は微々たるものだが、その地位と権力を利用すれば十二分に稼げるから困らない。

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