最新記事

ウクライナ戦争

ロシア・CIA・親ウクライナ派、ノルドストリーム爆破は誰の犯行か 河東哲夫×小泉悠

THE DECISIVE SEASON AHEAD

2023年3月31日(金)17時45分
小泉 悠(軍事評論家)、河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)、ニューズウィーク日本版編集部
ノルドストリーム

昨年9月の海底パイプライン爆破事件は謎に包まれているが、大きな影響を及ぼす可能性も DANISH DEFENCE COMMAND-REUTERS

<欧米メディアを騒がせる海底ガスパイプライン爆破事件は「陰謀」だったのか。日本有数のロシア通である2人が対談し、ウクライナ戦争を議論した>

※本誌2023年4月4日号「小泉悠×河東哲夫 ウクライナ戦争 超分析」特集に掲載した10ページに及ぶ対談記事より抜粋。対談は3月11日に東京で行われた。

※対談記事の抜粋第2回:戦争の焦点は「ウクライナ軍のクリミア奪還作戦」へ 小泉悠×河東哲夫・超分析 より続く。

――次にお尋ねしたいのは、昨年9月のバルト海底のガスパイプライン「ノルドストリーム」爆破の問題です。

最初はロシアがやったんじゃないかと当然思う。その後、米軍あるいはCIAが実行したという情報が出ましたが、3月7日になって米ニューヨーク・タイムズ紙が、親ウクライナ派の犯行だったという見立てを書いています。この事件についてはどう分析・評価しますか。

■小泉 昨日(編注:3月10日)の独シュピーゲル誌に、親ウクライナ派が爆破のために使った工作母艦みたいなボートの写真が載っていましたが、まるで普通のプレジャーボート。本当にこれであのパイプラインを爆破するような爆薬を運んでいけるのかと思いましたけれど、まあ、でも本当であってもおかしくはない。

跳ね返りの連中がやったのであれば、政治的効果をきちんと計算せず、「ウクライナのためと思ってやったけれど、完全に政治的には逆効果だった」という可能性はなくはないと思います。ロシア犯行説と同じように、現状あまりはっきりした物証がないのでどちらとも言いにくい。

■河東 ピュリツァー賞も受賞したアメリカの調査ジャーナリストのセイモア・ハーシュが2月8日に、それまでノルドストリーム爆破について調査してきた結果を自分のブログで発表しています。

アメリカが大統領の肝煎りで海軍と諜報機関に担当させ、ノルウェー海軍も引き込んでやったと。これが本当だとすると、非常に大きなマグニチュードを持つ。

なぜかと言うと、(ロシアの国営企業)ガスプロムの持ち物ではあるがドイツも資金を出しているパイプラインを、アメリカが同盟国ドイツに無断で爆破した。

確かに以前からアメリカはドイツに、このパイプラインはやめろ、ロシアに過度に依存するなと言っていた。ところがドイツは原発をやめたこともあって、このパイプラインがなければエネルギー政策が成り立たない、とメルケル政権の時に強行した。それだけの経緯があるのに(ドイツに言うことを聞かせられないことで)議会の圧力を受けたバイデン政権が爆破を実行した──ということになるからです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 9

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中