ニーナ・フルシチョワ「ロシアでも西側でも人々は無能で独裁的な指導者を支持」
WAR AND POPULISM
イギリスの国民も、ボリス・ジョンソン元首相を3年間も野放しにしていた。彼が無能な取り巻きに政府の仕事を回しても、議会や王室を軽視しても、好きなようにさせた。たぶんブレグジット(イギリスのEU離脱)の「功績」ゆえだろう。
ポーランドではヤロスワフ・カチンスキの政権が法廷と国内メディアの大半を脅し、飼い慣らしている。補助金のばらまきで農村部や貧困層に取り入り、盤石の支持基盤を固めているからだ。
こうして政府が国民の一部と取引するのが当たり前になると、専制主義と独裁の土壌が育つ。人は国家(または世界)のためではなく、自分と仲間の利益のために票を投じるようになる。そして指導者は有権者の望みをかなえる代わりに、民主主義と倫理を堂々と踏みにじる。国民の物質的欲望を満たす一方で、異質な少数者に対する恐怖心をあおり、憎悪を政治の武器とする。
プーチンやトランプのようなポピュリストは巧みに支持者の空気を読み、それに合わせて自分の意見や立場を変える。ウクライナ侵攻に対するトランプの反応を見ればいい。当初はプーチンに肩入れしていたが、国内世論の動向を見て、ある時期から侵攻反対に舵を切った。
だがウクライナ人の勇気をたたえてきたアメリカ人の間にも、今は支援疲れが見える。共和党議員の多くは、ウクライナ支援も無条件ではないと言いだしている。トランプ同様、心の底では「アメリカだけがよければいい」と思っているのだろう。
さすがに今は、ロシアの一般市民もウクライナで起きている惨劇の不条理に気付き始めた。ただしウクライナの人々に同情したからではなく、自分の息子や親兄弟が兵隊に取られかねない事態になったからだ。しかし、もしアメリカの共和党議員がウクライナの現実に背を向け、目を閉じてしまうようなら、ロシアの人々もプーチンの戦争に反対する意欲を失うだろう。
社会契約とは、社会の全ての人が共通の利益のために、一定の規則や規範を受け入れるという暗黙の了解を意味する。だがポピュリストは異質な人を排除して、ひたすら身内の利益だけを追求する。まさにプーチンがやってきたことだ。
そうしたアプローチの有効性にプーチンが気付いたのは、ある意味で意外だった。もともと彼は思慮深い男ではない。トランプも同様だ。しかし、そこが一番の問題かもしれない。だから私たちはだまされ、ポピュリストのゆがんだ統治を受け入れてしまった。もう思慮も分別もなく、あるのは恐怖と恥辱、そして排除の論理だけ。そこでは独裁者が栄え、野蛮な戦争が繰り返される。
ニーナ・フルシチョワ
NINA KHRUSHCHEVA
米ニューヨークにあるニュースクール大学の教授(国際問題)、コラムニスト。元ソ連首相ニキータ・フルシチョフのひ孫。共著書に"In Putin's Footsteps: Searching for the Soul of an Empire Across Russia's Eleven Time Zones "がある。
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