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軍事衝突

なぜ中国もロシアも手を出せない? 世界が知らぬうちに激化した中央アジア「戦争」の戦況

What’s Behind the Flare-up

2022年10月12日(水)17時34分
アセル・ドゥーロットケルディエバ(ビシケクOSCEアカデミー専任講師)、エリカ・マラト(米国防大学国際関係学部准教授)

さらに、ロシアきっての人気政治家であるワレンティナ・マトビエンコ上院議長が、ロシアがウクライナを侵攻した日にタジキスタンの首都ドゥシャンベを訪問して、ラフモンの息子ロスタム・エモマリと会談。父から子へ権力継承を承認したようにも見える。

キルギスでは、ロシアのウクライナ侵攻を明確に支持せず、中立の立場を維持してきたために、プーチンは助けてくれないのではないかと悲観する声もある。

キルギスとタジキスタンの国境地帯での緊張拡大は今に始まったことではない。小競り合いは日常的で、昨年4月には民間人40人余りが死亡、200人以上が負傷した。

こうした状況には多くの要因が働いている。ソ連時代、フェルガナ盆地(ウズベキスタン東部を中心にキルギスとタジキスタンにまたがる)の国境が未画定だった結果、地理が複雑に。タジキスタンとキルギスは約970キロにわたって国境を接しているが、画定しているのはその半分のみ。タジキスタンの飛び地2つがキルギスにあって両国間の緊張要因となっている。

国境問題を人気取りに利用する両国政府

だが真の問題は近代政治に起因する。キルギスでもタジキスタンでも政権が国境問題を内政に利用しているのだ。タジキスタンは独裁政権、キルギスはポピュリスト政権と政治体制は大きく異なるが、どちらも国境問題に対しては交渉による平和共存を模索するのではなく、ポピュリスト的アプローチを取ってきた。

キルギスのジャパロフは昨年の大統領選に先立って支持を固めるために国境問題の解決を約束。一方タジキスタンのラフモンは政権を中心に国を結束させるために拡張主義のレトリックを用いている。

タジキスタンはロシア、中国、イランから弾薬や軍事訓練の提供を受けている。中国公安部はアフガニスタンからの過激派組織の脅威に対抗するべく新たな基地の建設資金を提供し、イランは軍用ドローンの製造工場を開設した。

アフガニスタンと長い国境を接するタジキスタンは、アメリカとEUからも広範な安全保障関連の援助を受けてきた。米政府はタジキスタンに戦術兵器や軍事訓練を提供。キルギスもアメリカから安保関連の支援を受けているが、こちらは民主主義構築を目指すプログラムがほとんどだ。

ラフモンは90年代の内戦以降30年近くタジキスタンを統治してきた。投獄や国外追放、殺害という形で反対勢力を一掃。近い将来、息子に権力を移譲する意向とも伝えられている。国境とタジク人を守るという名目でキルギスとの紛争をエスカレートさせれば、世襲に備えて軍と官僚に対する支配を強化するのに役立つ。

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