アベノミクスの生みの親が明かす安倍晋三の「リベラル」な一面
MOURNING THE REAL ABE SHINZO
内閣参与を退任する際に記念撮影した浜田氏と安倍元首相の写真(浜田氏提供) COURTESY OF KOICHI HAMADA
<「あなたは間違っている」と言われたこともあるが、今はそのとおりだと思う――安倍政権で経済顧問を務めた浜田宏一氏が寄稿>
7月の安倍晋三元首相の葬儀の時、斎場に至る通りは花を持った人々で埋め尽くされた。今でも安倍元首相暗殺のショックは生々しい。
アメリカでは銃によって毎年何万人もの命が失われているが、日本の銃による死者数は年間1桁にとどまる。
安倍氏を悼む人々の多くは、アベノミクスと呼ばれる彼の経済政策によって初めて仕事を得た若い労働者たちだったろう。約8年にわたった第2次安倍政権において、日本は約500万人の新規雇用を純増させた。
私が安倍氏に初めて会ったのは2001年、北朝鮮訪問を予定していた小泉純一郎首相の下で彼が官房副長官を務めていた時だ。安倍氏の北朝鮮に対する強い姿勢は政権内で際立っていたが、その怒りは人道的な正義感に満ちていた。
政治・外交的な強硬姿勢ゆえ、安倍氏は自民党のタカ派と言われた。特に台湾に対する中国の要求には断固として抵抗するつもりだった。
今年4月に発表した英語の論文では、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官の「戦略的曖昧さ」という概念に疑念を示し、アメリカは明確に台湾防衛の姿勢を示すべきだと警告した。
「ウクライナとロシアのように、台湾と中国の間には大きな軍事力の差がある」と、安倍氏は指摘した。さらに台湾に侵攻した場合、中国は国際法上の戦争ではなく国内紛争だと弁解できる。
このように中国が台湾侵略の誘惑に駆られる可能性が多いので、安倍氏はアメリカが「戦略的曖昧さ」に頼らず、台湾を守るとストレートに宣言するべきだと主張した。ナンシー・ペロシ下院議長の台湾訪問に一脈通じるものがある。
安倍氏は当然のことながら保守的な政治家と評価されていた。私は安倍氏から内閣参与就任の依頼を受けたとき、思わず「私のほうが総理よりリベラルのように思いますが」と言ってしまった。彼はにっこり笑って、私を指名した。
そして結果はうまくいったように思う。経済問題に関して彼は私が考えていた以上にリベラルであり、もしかしたら私よりリベラルかもしれなかった。
彼は2度目の首相になる直前、私とのインタビューでこう話していた。「私は経済政策を勉強するため、最初は金融問題よりも社会保障の勉強をした」。社会保障はリベラル派の好むテーマである。