最新記事

香港

「映画検閲法」に挑む新世代──90年代の香港映画ファンにこそ見てほしい

2022年4月22日(金)17時33分
クリスタル・チャウ

雨傘運動のドキュメンタリー『乱世備忘 僕らの雨傘運動』で知られる映像作家の陳梓桓も、時代の激しい変化が香港の物語を誠実に伝えようとする映像作家たちに新たな道を開いたと考える。

動乱の時代を生き抜いた者にとって、「19年以降の出来事は何らかの形で私たちの作品に痕跡を残すだろう」と認める一方、陳は若い世代の映像作家が新たな境地を切り開く可能性に「非常に楽観的」だと断言した。

陳の新作はフィクションを交えたドキュメンタリー『Blue Island 憂鬱之島』(先日ロッテルダム国際映画祭で上映され、海外での配給も決まった)。記憶と物語、そしてアイデンティティーの微妙なずれを見つめた作品だ。

17年に制作を開始したこの作品は、資料映像と今のドキュメンタリー映像に、香港現代史の重要な瞬間を生き抜いた3人の男性の再現ドラマを織り込んでいる(忠実な再現ではない。「ドラマ」だからフィクションも含まれる)。

こうした再現ドラマは語りの装置であると同時に、記憶の持続性と二重性に目を向けさせる手法でもある。

「彼らが生涯を通じて言おうとしてきた物語を見せつつ、同時に新しい視点を掘り起こす」。そうしてこそ彼らのストーリーを語れると、陳は考える。

この3人は文化大革命と1967年の反植民地闘争、そして天安門事件をそれぞれ経験した。そしてこの3人それぞれに、19年の抗議デモで傷ついた若い活動家が寄り添い、世代を超えた深い対話を繰り広げる。

「違いはあっても、彼らを結び付けるのは、誰もが香港の未来を考えて行動し、そのために代償を払った事実だ」と、陳は言う。

映画の最後に、多くの登場人物が獄中にいるか、裁判を待つ身であることが明かされる。制作の初期に撮影された大衆運動の象徴的な瞬間は、今や過ぎ去った時代のものだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー

ワールド

焦点:中国農村住民の過酷な老後、わずかな年金で死ぬ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの文化」をジョージア人と分かち合った日

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中