最新記事

フォーラム

繰り返される衰退論、「アメリカの世紀」はこれからも続くのか

2021年1月20日(水)13時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

asteion20210119forum-machidori-2.jpg

待鳥聡史/京都大学大学院法学研究科教授。1971年生まれ。京都大学卒業。京都大学大学院法学研究科博士課程退学。博士(法学)。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『財政再建と民主主義』(有斐閣)、『首相政治の制度分析』(千倉書房、サントリー学芸賞)など多数。

■待鳥: 石川敬史氏の論文タイトルは「特殊にして普遍的な幻想の超大国」ですが、アメリカが面白いのは自分たちがやっていることを「普遍的」と主張するところです。それはヨーロッパでも日本でもどこでも適用可能だと。適用できないと「なぜ適用できない」と怒り、今はその怒りの矛先を中国に向けていますが、それでもアメリカの持つ普遍性はある程度は世界の各地で受け入れられてきたのは事実と思います。

ところが、普遍というのはみんなに共通して使えるということだったはずが、それがいざ実現すると、今度はアメリカの中では止めどなく差異化のロジックが生まれているのが興味深いところです。差異を消して普遍化したはずが、その普遍化が終わると今度は差異化のロジックが強くなっている。つまり差異化を普遍的にやるというメタレベルになっています。しかし、差異化を普遍的に突き詰めると、どんどんばらばらになる以外はあり得ないので、これは大変なことです。しかも、それがリベラルの側で強くなっています。

リラ氏が指摘する「液状化」は、アメリカ論の中では繰り返されてきたモティーフだとも言えます。1950年代には「大衆社会論」がありましたし、その前からトクヴィルも民主主義にとって重要なのは国家と個人の間の中間的組織(アソシエーション)だと言っていました。それでも個々人がそれほど違わないというのがアメリカの普遍のロジックでした。個々人をつなげる何かが必要だけれど、そもそも個々人が大きくは違わない、というのがアメリカ論の妙味のようなところでもあったわけです。それが今は全部差異化しろ、差異化しているほうがいいし、そもそもみんな違うのだという風潮になっている。この差異化を普遍化していくことが果たして21世紀のアメリカで受け入れられていくのかと言われたら、私は疑問です。

「アメリカ衰退論」は繰り返される

■田所: 昔話をするような年齢になったかと思うと本当に不愉快なんですけど(笑)、私が生きている間でも「アメリカ衰退論」は何度もあり、ほぼ10年ごとに確実にあります。ベトナム戦争のときも「アメリカはもう終わり」という雰囲気で、その後カーター政権に変わっても元気がなく、都市は荒廃し、犯罪ばかりで「もう駄目だ」という論調でした。

その後、レーガン政権になって急に元気になったかと思うと今度は冷戦後に勝利したのは日本とドイツだと言われ始める。しかし、それからたった10年で今度は「世界最大の帝国」「アメリカ一極主義」という論調でした。ですから、今私たちがアメリカについて語っていることが、マクロな歴史的視点で見ると特異な状況であると言い切れるかは、いつも気になっています。小濵先生はこの点について、どう思われていますか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、20万8000件と横ばい 4月

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中