最新記事

アメリカ政治

バイデン勝利の陰の功労者は黒人女性政治家エイブラムス

GEORGIA ON HER MIND

2020年12月11日(金)16時20分
フレッド・グタール

ジョージアでは2018年の中間選挙後の8カ月で、20万人弱が新たに有権者登録をし、その大半が支持政党に民主党を選んでいた。その事実を指摘した上で、彼女は20年の秋までにさらに30万人(うち20万はアフリカ系)の新規登録が見込まれると予想した。トランプに幻滅した大卒の白人も多いだろうと見込んだ。

敵も認めるリーダーシップ

だから今までの数字だけで判断しないでくれ、ジョージアはもっとできる。エイブラムスはそう訴えた。人口の3割を占めるアフリカ系の票をもっと掘り起こす「前例のない資金」を投じてくれと。

州知事選の際、エイブラムス陣営は無党派の票は少ないと計算していた。投票総数400万のうち、せいぜい15万くらいだと。しかし今回は違う。トランプが相手なら、新たに相当な数の無党派層を取り込めると見込んでいた。

知事選での善戦は有権者の開拓に資金を惜しまなかった成果であり、その勢いを維持できれば今度こそ勝てる。2年前には諸般の事情で棄権に回った約8万人を、投票所に連れて行ければ勝てる。エイブラムスはそう主張した。そうすれば「民主党は大統領選に勝ち、上院でも連邦下院の第6、第7選挙区でも勝ち、州議会の過半数も取れる」と。

党本部は彼女に下院選への出馬を勧めたが、エイブラムスは辞退し、有権者登録の促進活動に専念した。「予備選に名乗りを上げた主要候補には直接会って、2つのことを伝えた」と、政治ニュースサイトのポリティコに語っている。「1つ、投票抑圧は現実に起きており、そのせいで民主党は負けた。2つ、ジョージアは激戦州であり、ここを重視しないのは致命的なミスになる。幸い、どちらのメッセージも真摯に受け止めてもらえた」

今回、民主党陣営は投票率の大幅な上昇に助けられた。エイブラムスたちの活動だけでなく、運転免許の取得・更新時に有権者登録もできるようにした州の施策も効いた。

こうしたエイブラムスの活動には敵も一目置いている。「ジョージアのためにあなたがしたことはリーダーシップのかがみだ」と、かつて共和党全国委員会の委員長を務めたマイケル・スティールはツイートした。「あなたは国に手本を示した」

この年末も、エイブラムスに休んでいる暇はない。地元紙によれば、共和党保守派の支援団体は1月5日の上院選決選投票に向けて100万ドルを投じる予定だ。妊娠中絶反対派の組織も400万ドルを出すという。

負けてはいられない。エイブラムスは11月7日に、ツイッターでこう呼び掛けた。「ありがとう、ジョージア。私たちは力を合わせて州の未来をいい方向に変えました。でも、まだ仕事は終わっていません」

<本誌2020年12月8日号掲載>

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国碧桂園、清算審理が延期 香港裁判所で来月11日

ワールド

米声優、AI企業を提訴 声を無断使用か

ワールド

フィリピン中銀、タカ派スタンス弱めればペソに下押し

ビジネス

適正な為替レート、「110─120円台」が半数=帝
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中