最新記事

アメリカ政治

バイデン勝利の陰の功労者は黒人女性政治家エイブラムス

GEORGIA ON HER MIND

2020年12月11日(金)16時20分
フレッド・グタール

magw201211_geogia2.jpg

上は投票した人に配られたステッカー ELIJAH NOUVELAGE/GETTY IMAGES

もともと共和党の強い南部で、しかも人口の多いジョージア州で民主党が勝てる可能性を示したこと。これでエイブラムスの株は上がった。現に今年は最後まで副大統領候補の1人として名が挙がっていた。バイデン政権で要職に起用される可能性もあるし、彼女自身が2年後に再び知事選に出馬する可能性もある。どう転ぶかは分からないが、当面、彼女の動きから目が離せない。

実は彼女、ジョージアの出身ではない。1973年にウィスコンシン州マディソンで生まれ、育ったのはミシシッピ州。優秀な成績でスペルマン大学を卒業したが、その頃に失恋し、悔しくてこの先40年の人生プランを表計算ソフトに書き込んだ。まず24歳までにロマンス小説を書いて売れっ子作家になり、30歳では会社を経営して大金持ち、そして35歳でアトランタ市長......。

それから20年余り、エイブラムスは(ほぼ)自分を偽らずに生きてきた。テキサス大学オースティン校に進んで行政学の、エール大学に転じては法学の修士号を取得した。

エール大学の3年目にはセレナ・モンゴメリーというペンネームでロマンス小説を発表。2009年までに同じ筆名で8作品を書き上げた。2018年には自分の政治家人生をまとめた本がベストセラーになった。来年5月には政治サスペンス小説『正義が寝てる間に』を出す予定だ。

2006年にはジョージア州下院議員に当選し、5期10年を務めた。2018年には州知事選の民主党予備選を勝ち抜き、主要政党では初の黒人女性候補となった。そして善戦し、あと一歩でアメリカ初の黒人女性知事になれるところまで行った。

共和党候補のケンプは現役の州務長官だったから、ジョージア州法の規定を巧みに利用して自分に有利な環境を整えていた。当時の州法では、過去3年間に投票歴のない住民を有権者名簿から除外することが可能だった。地元紙の報道によれば、ケンプは2017年7月、職員に命じて有権者名簿を精査させ、30万人以上の有権者登録を取り消している。

知事選後、エイブラムスは「フェア・ファイト2020」なる団体を立ち上げ、有権者登録の回復を求めて州政府を提訴した。2012年以降の投票歴がなく、あるいは州からの問い合わせに返信しなかったせいで除外された州民12万人以上の権利回復を求める訴訟だ。

そして昨年、彼女は2020年の大統領選で民主党がジョージア州を奪還するための作戦プランを党本部に提出した。その冒頭で、彼女は書いた。「(次の選挙で)ジョージア州に全力を注がなければ、戦略的な間違いを犯すことになる」と。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中