最新記事

ミャンマー

奇跡の選挙から5年、ミャンマー総選挙でスーチー勝利し、分断は深化へ

2020年11月16日(月)13時30分
セバスチャン・ストランジオ

スーチーの写真を掲げて選挙結果を待つNLD支持者(11月8日、ヤンゴン)SHWE PAW MYA TIN-REUTERS

<国際的な評判は落ちたが、国内では今も崇拝に近い支持を集めるアウンサンスーチー率いる与党が過半数維持。だが少数民族に厳しい状況は変わらず、宗教・民族的分断は深まるばかり>

ミャンマーで11月8日に行われた総選挙で、アウンサンスーチー国家顧問が率いる与党・国民民主連盟(NLD)が単独過半数を維持した。

ミャンマーでは約2カ月に及ぶ選挙期間が始まる直前から、新型コロナウイルスの感染がさらに拡大。街頭での選挙運動は大幅に規制された。投票所では大半の有権者がマスクを着け、互いに距離を取って列を作った。

今回の総選挙では上下両院議員選のほか地方選も実施され、90以上の政党から5643候補が議会と地方自治体の計1119議席を争って立候補した。

憲法の規定によって上下院議席の4分の1は軍人に割り振られるため、単独過半数を得るには3分の2の議席を獲得する必要がある。選挙管理委員会は13日、NLDが上下両院で368議席を獲得し、単独で大統領を選出できる過半数の322議席を超えたと発表した。

事実上の国家元首であるスーチーの国際的な評判は、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害で落ちる一方だ。しかし国内では、多数派ビルマ人の間で崇拝に近い支持を集めていることが改めて示されたと言える。

ただし今回の選挙結果は、宗教的・民族的に深く引き裂かれているミャンマーを立て直すものにはなりそうにない。そもそも選挙制度自体が軍部とビルマ人に政治的権力が集中するようにできており、これが少数民族との武力紛争の火種にもなってきた。

スーチーはビルマ人にとって「女神」だが、独立以来自治を求めてきた少数民族の間での人気は全く高くない。少数民族系政党は前回2015年の総選挙ではNLDと共闘し、半世紀以上続いた軍の政治支配を終わらせた。だがその後は国内融和を進めようとしないNLDに幻滅し、今回の選挙ではたもとを分かっている。

少数民族系政党は、地方選では議席数を伸ばす見込みだ。しかし憲法では州首相など地方の指導者を指名するのは中央政府だと定めており、少数民族にとって厳しい状況は変わりそうにない。

しかも政府はシャン州やラカイン州などの一部地域で治安悪化などを理由に投票を中止し、150万人以上の投票権を事実上剝奪した。これについては、政府に批判的な少数民族を封じ込める意図があったともみられている。

ロヒンギャも投票機会を奪われた。虐殺も疑われる2017年のミャンマー軍による掃討作戦では、70万人以上のロヒンギャが国境を越えてバングラデシュに逃れた。出国した人々も、国内避難民キャンプに暮らすロヒンギャも今回は投票できなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国企業、28年までに宇宙旅行ビジネス始動へ

ワールド

焦点:笛吹けど踊らぬ中国の住宅開発融資、不動産不況

ワールド

中国人民銀、住宅ローン金利と頭金比率の引き下げを発

ワールド

米の低炭素エネルギー投資1兆ドル減、トランプ氏勝利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中