最新記事

韓国

文在寅政権の集会禁止はコロナ対策か政治弾圧か

2020年10月13日(火)18時00分
テジョン・カン

マスクとフェイスシールドを着用して警備に立つソウルの警察官(10月9日) AP/AFLO

<リゾート地や遊園地、国際空港が多くの人でにぎわうなか、抗議デモが計画されていた広場にだけ警察を出動させた政府。国民からは「まるで戒厳令」と批判の声>

韓国の警察当局は建国記念日の10月3日、ソウル中心部で約300台の警察バスを動員して壁を作った。1万1000人以上の警官が配備され、光化門広場への一般人の立ち入りは最小限に制限された。地下鉄は広場近くの駅を通過。車や歩行者は停止を命じられ、行き先を尋ねられた。

新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されるなか、広場で計画されていた文政権への抗議デモを止めるためのものだ。

しかし、当局の対応はすぐさま反発を買い、独裁政権の時代を想起させるという批判の声も出た。一部のネットユーザーは、「まるで戒厳令のようだ」と不満を漏らした。

パンデミック(世界的大流行)対策という点から見れば、大規模な抗議行動を阻止する決定は理にかなっている。国民の側も、感染拡大につながりかねない大規模な抗議行動への参加は控えるべきだ。

それでも政府の措置に対しては、国民の集会とデモの自由を保障する憲法上の権利を守る姿勢を示さなかったという批判の声が上がっている。

集会禁止の目的はウイルス拡散防止だと、政府は主張する。だが多くの人々は、文政権への批判の高まりを抑えるための措置と受け止めた。

この日はリゾート地や遊園地も多くの人でにぎわった。ソウル大公園には推定2万人前後が集まり、済州国際空港の利用者は約4万人に達した。

10月1日には、与党・共に民主党の李洛淵(イ・ナギョン)代表が烽下村にある故盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の墓地を訪れたが、現地には主に文政権の支持者とみられる大勢の人だかりができた。

だが、警察が出動したのは光化門広場だけだった。政府の目的が「人々が集まるのを止める」ためだったとすれば、今回の措置は理屈に合わない。

抗議運動の主催者は8月の大規模デモから教訓を学んでいた。この時はデモが感染拡大に一役買ったと批判され、実際に多くの参加者が新型コロナウイルスに感染した。

そこで主催者側は、10月3日に「ドライブスルー」と名付けた抗議行動を行うことにした。光化門広場を次々に車で通過しながら、抗議の意思表示としてクラクションを鳴らすというものだ。

しかし、政府はこれも阻止する動きに出た。ドライブスルー式抗議デモの参加者は運転免許を取り消し、罰金を科すと脅したのだ。この強硬措置は、政府が懸念しているのは感染拡大だけではないという多くの人々の疑念を強めることになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中