最新記事

アメリカ政治

トランプの新型コロナ感染が安全保障に及ぼす4つのリスク

The Dangerous Foreign-Policy Fallout of Trump’s COVID-19 Diagnosis

2020年10月6日(火)16時25分
マイカー・ゼンコー(米外交問題評議会フェロー)

3日で退院してマスクを外し、ホワイトハウスで健在ぶりをアピールするトランプ(10月5日) Erin Scot-REUTERSt

<健康問題から国民の目を逸らすためなら他国に軍事攻撃も始めかねないが、アメリカの主な敵国はトランプ政権の4年の間に好き勝手なことを始めている>

新型コロナウイルスに感染したドナルド・トランプ米大統領の病状が、今後どうなるのかは誰にも分からない。だがトランプの感染が、アメリカの安全保障に幾らかの影響を及ぼすことは避けられないだろう。外交政策に及ぶ影響については、さらに予測が難しい。トランプ政権にはそもそも「正常な基準値」がないから、それが狂った時のひずみが推測できないのだ。いずれにせよ、トランプの新型コロナ感染で注目すべき問題が4つある。

まず新型コロナ感染の最も直接的な影響として、トランプが同ウイルスの脅威についての考え方を改め、民主党と緊密に協力して対策にあたるようになる可能性もある。新型コロナはアメリカ国民が直面している最も深刻な脅威であり、大統領にとって、その影響を軽減することは国家安全保障上の最大の関心事であるべきだ。

新型コロナウイルスの差し迫った脅威、および長期的な悪影響を軽減するためにどのような介入が必要かはよく知られており、大統領が必要な支援を拡大すれば、すぐに対策を取ることができるはずだ。トランプ自身、入院していたウォルター・リード陸軍病院からツイッターに投稿した動画の中で、「新型コロナウイルスについて多くを学んだ」と語っていた(その後トランプは、「新型コロナを恐れるな」とツイートした)。

外交政策上の意思決定に影響も

だが残念なことに、トランプは一度公に表明した意見をどうしても修正できない性分だ。自らの感染を発表する前の数日間には、「直感」を根拠にまたもや新型コロナウイルスの死亡率を低く見積もり、同ウイルスを普通の風邪になぞらえ、民主党の大統領候補ジョー・バイデンがマスクを着用しているのを馬鹿にしていた。

さらに悪いことに、トランプのその「頑迷でお粗末な判断」を基に、共和党と熱心なトランプ支持者の意見が形成されている。そう考えると、トランプは今後も新型コロナウイルスの脅威を深刻に受け止めることはなく、危機感の足りない連邦政府の無能ぶりも続くことが予想される。

2つ目の問題は、もしもトランプに強い症状が出た場合、特にボリス・ジョンソン英首相の感染時と同じくらい症状が悪化した場合、それが彼の外交政策上の意思決定に悪影響を及ぼす可能性があるということだ。薬物治療や倦怠感、ストレスの増大は人の認知能力を弱め、意思決定やその伝達能力を悪化させる作用がある。

トランプの最も分かりやすい外交ツールは軍事力だ。彼は前任者のバラク・オバマが爆撃を行った全ての国への空爆を承認して(多くの場合さらにエスカレートさせて)きた。彼が最も力を入れたのは、大々的に報道された2017年4月と2018年のシリア政府関連施設へのミサイル攻撃だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前月比+0.3%・前年比+3.4%

ワールド

米大統領選、バイデン氏とトランプ氏の支持拮抗 第3

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中