最新記事

ボイジャー

ボイジャー2号が太陽系外の星間物質の電子密度の上昇を観測

2020年10月26日(月)17時50分
松岡由希子

「太陽圏」を脱したボイジャー NASA/JPL-Caltech

<1977年に打ち上げられた無人宇宙探査機「ボイジャー2号」は、太陽系を取り囲む「太陽圏」を脱し、なお星間物質の電子密度などを計測している...... >

NASA(アメリカ航空宇宙局)の無人宇宙探査機「ボイジャー2号」は、1977年8月に打ち上げられて以来、木星、土星、天王星での探査を経て、2018年11月、太陽系を取り囲む「太陽圏」を脱し、太陽から放出された太陽風が星間物質などと混じり合う境界面「ヘリオポーズ(太陽圏界面)」を通過した。「ボイジャー2号」に先立ち、「ボイジャー1号」も2012年に太陽圏を脱している。そしてボイジャーは今なお驚くべき宇宙の様子を観測しつづけている。

星間物質の電子密度

銀河系の星間物質の平均電子密度は、計算モデルにより1cm3あたり0.037個と算出されている。

しかし、米アイオワ大学の研究チームが2020年8月25日に学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル・レターズ」で発表した研究論文によると、これら2機が太陽系外で実際に観測した星間物質の電子密度は、この計算値よりも高かった。

「ボイジャー2号」は、「ヘリオポーズ」を通過した直後の2019年1月30日、119.7天文単位(AU:約178億キロ)の地点で星間物質の電子密度を1cm3あたり0.039個と観測。2020年6月19日に124.2天文単位(約185億キロ)の地点で観測したデータでは、星間物質の電子密度は1cm3あたり0.12個で、2019年1月30日時点よりも高くなっていた。

同様の傾向は「ボイジャー1号」でも確認されている。「ボイジャー1号」が2013年10月23日に122.6天文単位(約182億キロ)の地点で観測した星間物質の電子密度は1cm3あたり0.055個であったのに対し、さらに20天文単位(約29.8億キロ)先の地点で観測した星間物質の電子密度は1cm3あたり0.13個であった。

あと5年で完全停止か

研究論文では「これらの密度勾配は、ヘリオポーズの外側の星間物質『極近傍星間物質(VLIM)』の特徴を示すものではないか」と考察している。その原因については、「星間風によって吹き飛ばされた物質がヘリオポーズに到達するにつれて遅くなり"渋滞"を引き起こすため」という説など、これまでに様々な学説が唱えられてきたが、研究チームは「ボイジャーがこれらの説を検証するために十分な航行ができるかどうかはわからない」と述べている。

ボイジャーは放射性物質が崩壊する際に熱を放射することで駆動する駆動放射性同位体熱電気転換器(RTG:原子力電池の一種)を使っていて、太陽光発電なしでも観測装置が稼働できるが、出力が低下しており、2025年には完全停止すると言われている。

Voyager 2 Trajectory through the Solar System 2017年時
今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀保有国債は高水準、イールドカーブに作用続ける=

ワールド

中国、フィリピン船を「追い払った」と発表 スカボロ

ワールド

アジア太平洋、軟着陸の見込み高まる インフレ低下で

ビジネス

暗号資産の現物ETF、香港で取引開始 アジア初
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中