最新記事

日本外交

安倍流「抱き付き」作戦の外交成果と、新首相が問われるトランプ操縦術

Will Abe’s Successor Handle the U.S. As Well?

2020年9月16日(水)18時00分
マーク・ジョセフ(コラムニスト)

「ゴルフ外交」も2人のキーワードに(2019年5月、千葉県のゴルフ場) JONATHAN ERNST-REUTERS

<「猛獣使い」安倍の巧みなトランプ対応が日米同盟の崩壊回避に役立ってきたが>

2016年11月にドナルド・トランプ米大統領の誕生で不意打ちを食らった中に、日本政府の外交政策組織もいた。大統領選から数日間、安倍晋三首相の非公式の代理人はニューヨークにいながら、トランプ・タワーにいる誰とも接触できずにいた。

それでも最後は交渉がまとまり、11月17日に安倍は外国の首脳として初めて、当選後のトランプと会談した。トランプ・タワーでの会談には、長女のイバンカ・トランプとジャレッド・クシュナーの夫妻も姿を見せた。

安倍とトランプがボクサーなら、安倍はこの4年間で、殴られる前に相手を抱き締める「クリンチ」を完璧にマスターした。トランプは過去30年の大半を通じて、アメリカを利用していると彼が思う国々──中国、韓国、日本、中東諸国──を非難してきた。

安倍は、トランプに近づけば近づくほど殴られても軽傷で済むことを、本能的に知っていた。貿易問題でも、在日米軍の駐留経費負担を減らしたいというトランプの周知の願望についても。

日米の貿易協定は、アメリカにとって有利な交渉が進められてきた。一方で、トランプは在日米軍を撤収させるといった大きな動きを取ることはなかった。

ただしこれらは、安倍がトランプを抱擁した成果だったのかもしれない。安倍の後継者となる日本の新しい指導者に、彼と同じようなスキルがあればいい。ないのなら、駐留米軍を撤収するか、アメリカが同盟国である日本を防衛する費用を全額日本に払わせるか──という二者択一をトランプが迫った場合、もはや拒むことはできないだろう。

予測不可能な大統領

9月14日に投開票が行われる自民党の総裁選挙は、安倍の側近の岸田文雄と菅義偉、そして安倍が敬遠しているといわれる石破茂の3人で争われている。

安倍は公然と誰かを支持したわけではないが、昨年は一時期、後継者には岸田がふさわしいと示唆していたといわれている。しかし、総裁選直前の現段階では菅がほぼ当確とみられる。この数カ月、菅は日本政府の顔として、新型コロナウイルス危機に関してテレビに出ずっぱりだった。(編集部注:14日の自民党総裁選で菅義偉官房長官が新総裁に選出された)

アメリカでトランプが再選されれば、安倍の後継者は、日本は不公平な貿易協定にただ乗りして防衛協定の恩恵を一方的に受けているわけではなく、アメリカにとって地域の重要な同盟国だとトランプに思わせなければならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、物価圧力緩和まで金利据え置きを=ジェファー

ビジネス

米消費者のインフレ期待、1年先と5年先で上昇=NY

ビジネス

EU資本市場統合、一部加盟国「協力して前進」も=欧

ビジネス

ゲームストップ株2倍超に、ミーム株火付け役が3年ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 7

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げ…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中