最新記事

追悼

コービーはジョーダンに並ぶ「神」だった

A Tribute to the Black Mamba

2020年1月31日(金)17時00分
芹澤渉(共同通信ロサンゼルス支局記者)

「コービーは私たちにとってのエルビス」

コービーは憧れのジョーダンの、さらに上をいこうとした。両者を指導したフィル・ジャクソン監督が互いを引き合わせたところ、コービーが開口一番こう言ったのは有名だ。「俺はあんたにワン・オン・ワン(1対1)で勝てるぜ」

やはり、好きになれない......。

しかし、最終目的地のロサンゼルスに到着すると、私は突き動かされるようにレイカーズの本拠地ステープルズ・センターに直行した。グラミー賞授賞式開催のため厳戒態勢が敷かれたアリーナ周辺を、スーツケースを転がしながら歩いた。

アリーナ近くの建物ではコービーの肖像がスクリーンに映され、多くの市民がその前に集まっていた。写真を見上げ、静かに物思いにふける人、祈りを捧げる人、「コービーのために優勝するぞ」と叫ぶ人。普段は陽気なロサンゼルスの街が、やり場のない悲しみで満ちあふれていた。

なぜ、そこまでファンに愛されたのか知りたかった。「彼はわれわれにとってのエルビス(・プレスリー)だった」とある40代のファンは言った。

その比較で腑に落ちた。42歳で亡くなったエルビスと、41歳だったコービー。新世代の音楽ロックを社会に広めた王様と、ジョーダン後のNBAを担ったマンバ(毒蛇になぞらえた愛称)。そう、コービーは「神」の存在を脅かしただけでなく、彼自身もまた神だったのだ。私も心の奥底では分かっていた。

ジョーダンのNBA制覇6度に対し、コービーは5度。歴代5位の3万2292点に対して同4位の3万3643点。そんな数字の比較に意味はない。いてもたってもいられずに夜の街に集まったファンの姿が、存在の大きさを何より物語っていた。

午前4時から練習するなど、コービーのバスケットボールに対するストイックな姿勢は伝説的だった。現役を退いた2016年、スポーツ選手を表彰するESPY賞で功績をたたえられた際も、受賞スピーチで不断の努力の重要性を説いた。「休むのは最後だ。途中ではない」

あまりにも早い最後だった。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アップル、見通しさえず株下落 第4四半期は予想上回

ワールド

米裁判所、マスク氏訴訟の手続き保留を決定 大統領選

ワールド

北朝鮮、31日発射は最新ICBM「火星19」 最終

ワールド

原油先物、引け後2ドル超上昇 イランがイスラエル攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後はさらなる「倒産増加」が予想される
  • 2
    「まるで睾丸」ケイト・ベッキンセールのコルセットドレスにネット震撼...「破裂しそう」と話題に
  • 3
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 4
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 5
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 6
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 7
    天文学者が肉眼で見たオーロラは失望の連続、カメラ…
  • 8
    中国が仕掛ける「沖縄と台湾をめぐる認知戦」流布さ…
  • 9
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 10
    自爆型ドローン「スイッチブレード」がロシアの防空…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符…
  • 5
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 7
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 8
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 9
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 8
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 9
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 10
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中