最新記事

中東

イラン対米ミサイル攻撃、犠牲者ゼロの理由 米兵救った謎の「事前警告」とは?

2020年1月18日(土)13時33分

1月8日未明、イランが発射したミサイルがイラクのアル・アサド空軍基地に駐留する米軍を襲った。写真は13日に撮影された、攻撃された基地(2020年 ロイター/John Davison)

1月8日未明、イランが発射したミサイルがイラクのアル・アサド空軍基地に駐留する米軍を襲った。だが、その8時間近く前、同基地の米軍・イラク軍兵士らは、人員や兵器を掩蔽壕(えんたいごう)へと移動させており、ミサイル攻撃による死者・負傷者はゼロだった。

イラク諜報機関の関係者によると、同日午前1時30分頃に着弾したミサイルは「その数時間前に空っぽになった格納庫」に命中しただけだった。米軍部隊は「深夜以降」に基地が攻撃を受けることを「完全に認識していた」ように見えたという。同基地に駐留するイラク軍将校の1人によると、攻撃のあった深夜には、戦闘機・ヘリコプターは1機たりとも屋外には残されていなかった。

イランによる攻撃の情報はなぜ事前に筒抜けだったのか。攻撃から数日を経ても、イラン、イラク、米国の当局者からの声明は互いに矛盾しており、攻撃の情報がどのようにリークされたのか、理由は依然として謎のままだ。

ポンペオ国務長官らは情報を否定

複数の米国メディアは、米国当局者の発言として、イランのミサイル攻撃は単なる警告射撃程度の規模だったと報道。その理由として、1月3日のソレイマニ司令官殺害をめぐり、イランが対米報復を求める国内世論に応える一方、米国側をできるだけ挑発しないよう配慮した措置だったとの見方を伝えた。

米国・アラブ諸国からの情報として、イランが攻撃前にイラクに警告を送り、イラクが米国側にその情報を流した、とのメディア報道もある。

だが、マイク・ポンペオ米国務長官は10日、記者団に対し、イランが米国民を殺害しようという「十分な意図」を持っていたことに「疑いはない」と述べた。これに先立ち、マーク・ミリー統合参謀本部議長も、米軍部隊が犠牲を避けられたのは米国情報機関による事前の警告によるもので、イラン政府からの警告や情報リークではない、とコメントしている。

イランが米軍をさらに攻撃するのか、あるいは全面戦争に踏み切る意志が本当にあるのかという判断も、いっそう難しくなっている。イラン当局者からも矛盾する声明が続いていおり、それが不確実性に拍車をかけている。

イラン国営テレビは今回の攻撃によって数十人の米兵が死亡したと虚偽の情報を流した。そうかと思えば、最高指導者ハメネイ師は「(まだ懲罰としては)十分でない」と宣言。その後まもなく、ザリフ外相は、イランによる報復は「終了した」、イランは「エスカレーションや戦争を求めていない」とツイートしている。

その後、イラン国営メディアは革命防衛隊空軍を率いるアミールアリ・ハジザデ司令官による発言として、「(米兵の)殺害を意図したわけではない。敵国の軍事機器に打撃を与えようとした」という説明を伝えた。だが、その一方でハジザデ司令官は、今回の攻撃で米兵を殺害したという虚偽の主張を繰り返している。

イラクのアデル・アブドゥル・マフディ首相の補佐官の1人はロイターに対し、ミサイル攻撃の直前までイランからイラクに対する直接の通告はなかったと語り、他国を通じて警告を伝えてきたと述べた。この補佐官は、国名を明かすことは拒みつつも、アラブ諸国の1国と欧州の1国から、攻撃が迫っているとの警告がイラク・米国双方にあったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRB当局者発言を注視 円

ビジネス

米国株式市場=S&Pとダウ上昇、米利下げ期待で

ワールド

米、イスラエルへの兵器輸送一部停止か ハマスとの戦

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中