最新記事

歴史

差別から逃れるように暮らしていた? 戦前の日系人集落跡、カナダの森林で発見

2019年9月9日(月)18時35分
松丸さとみ

人々はここで密かに暮らし続けた...... North Shore News-YouTube

<カナダ西部のブリティッシュ・コロンビア州にある森林の中で、日本人のものと思われる集落跡が発見された......>

茶碗や酒瓶など1000点以上が出土

カナダ西部のブリティッシュ・コロンビア(BC)州にある森林の中で、日本人のものと思われる集落跡が発見された。バンクーバー周辺のニュースを扱う地元紙ノースショア・ニュースが8月に伝え、その後、雑誌スミソニアンなどが報じた。

この集落跡地を発見したのは、BC州バンクーバーのキャピラノ大学で考古学を教えるボブ・マックル教授だ。2004年、同州の森林に興味深い場所があるとの連絡を受けて、発掘を始めたのがきっかけだった。掘り起こしてみると、そこから出てきたのは、ご飯茶碗や酒瓶だった。

それから14年間、マックル教授は毎年春になると考古学の学生を引き連れてここを訪れ、6週間にわたって発掘を行うようになった。この集落跡について同教授は、カナダに移住してきた日本人が身を寄せて暮らしていた場所だとの仮説を立てている。この集落跡からこれまで1000点以上の品々を発掘した同教授だが、ノースショア・ニュースによると、発掘作業は今年で終わりにする予定だと話しているという。

人種差別から逃れるための隠れ家

この場所はバンクーバーから北東20キロ弱の場所にあり、現在はローワー・シーモア保護区に指定されている。1918年ごろ、日系カナダ人ビジネスマンだったエイキチ・カゲツ氏がこの場所の森林伐採権をBC州から獲得。1924年に伐採は終了し、カゲツ氏は事業を拡大するためにバンクーバーの他の地へ移ったとされている。

しかしマックル教授は、森林伐採の作業が終わっても、人々はここで密かに暮らし続けたと考えている。1920〜1930年ごろにバンクーバーではびこっていた日系人に対する人種差別から逃れ、自分たちの文化を守るためにこの集落で暮らし続けたのではないかというのだ。第2次世界大戦が始まり日系カナダ人が抑留されるようになる1942年まで、40〜50人ほどがここで生活していたと同教授は考えている。

集落はフットボール場ほどの広さで、14戸ほどの小屋があり、貯水池から水が引かれていた。庭で野菜を育て、近くのシーモア川では魚が豊富に釣れたらしい。集落の北端にはヒマラヤスギで作られた台のように平らな場所があり、そこでは緑色のガラスを針金で合わせたちょうちんの一部らしきものも見つかった。ほとんどの日本人はこの場所を見て、神社だろうと口を揃えるという。

マックル教授は、年配の日本人女性が発掘作業に参加した時のことを振り返る。女性は、「お風呂はどこか」と聞いてきた。「ofuro」という単語をその時初めて聞いた教授は、それが日本の文化にとっていかに大切なものかや、日本人が住んでいたらなら風呂がないわけはないと聞かされた。最終的に浴場と思われる場所を発見するに至ったと同教授はノースショア・ニュースに話した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中