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輸出規制に揺れる韓国サムスン、半導体の映画を公開 白地に赤い幽霊の意味は?

2019年8月13日(火)20時20分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネーター)

輸出規制の不当性を訴える反日メッセージが隠れてる?

映画の内容だが、実際に観るまでは「ホワイト国を除外した日本を叩いて、愛国心をくすぐるような内容なのではないか? だから、ここまで再生回数が伸びたのだろう」と疑っていた。ところが、実際の作品はタイトルにあるように記憶に関するSF短編映画だった。

イラストレーターの主人公は、ある機関からの依頼で被験者となる。実験中、眠って夢を見てその内容を語るのだが、実はこの夢は自分のものではなく......というストーリーだ。ただ、劇中で実際に半導体が画面に映し出されるのは1カットのみで、さらにその半導体のクローズアップにもサムソンのロゴは入っていない。映画を観終わった後、これが企業広報を兼ねて作られた短編映画だということを忘れてしまうほどだった。それどころか、サスペンス風のBGMが絶え間なく流れ、全体的に不穏な空気に包まれているため、企業にとってマイナスイメージになりかねないのではないか?と思ったほどだ。

この疑問についてサムスン側は、「映画の暗い雰囲気が、半導体技術の未来に込められた明るいメッセージをより強調させている」と述べている。サムソンは万人に受け入れられる分りやすさよりも、作品性を強調させて、あくまでも直接的なCMではない短編映画の要素を引き出す方向を選んだのだ。

ただ、愛国心をくすぐる「反日」的な要素がまったくなかったのかというと、1カ所だけ気になるカットがあった。冒頭、主人公が子供のころ見た悪夢の話をする。その中に出てきた顔だけのお化けを描いたイラスト数点がクローズアップされるのだが、2枚ほど白紙に赤い丸の日本国旗をイメージさせる配色の恐ろしい顔のお化けが描かれている。穿った見方かもしれないが、制作者は日本に対するメッセージをこのカットに込めたのかもしれない。

直接的でなく、ストーリーに乗せて自分の考えや主張を伝えることができるのが映画という媒体だ。短編映画への企業の支援が根付いている韓国だからこそ、企業は作品に理解を示し、監督を信じて作品を委ねる体制ができているのではないだろうか。だからこそ、単に明るくクリーンなイメージの映画や、企業のロゴがそこら中に登場するようなCM的短編映画ではなく、今回のような一見するとダークではあるがしっかりとした作品性をもった映画が誕生したのだろう。

今回のヒットを機に、今まで短編映画に興味のなかった企業が映画を製作に乗り出すかもしれない。作り手も企業も、干渉しない程度のいい距離を保ちつつ、お互いをパートナーとしてよい意味で利用していけば、映画界の発展に繋がっていくことだろう。

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