最新記事

香港デモ

デモ終息見えぬ香港で警察の士気低下 中国本土の武装警察出動の可能性も

2019年7月22日(月)11時16分

政府に対する市民のデモが激化する中、優秀なことで知られる香港の警察が、自信の喪失、リーダーシップの欠如という危機に直面している。写真は日曜日のショッピングモールで発生した市民と警察の衝突。7月14日、香港の沙田区で撮影(2019年 ロイター/Tyrone Siu)

政府に対する市民のデモが激化する中、優秀なことで知られる香港の警察が、自信の喪失、リーダーシップの欠如という危機に直面している。

ロイターが取材した現役の警官、退職した元警官、政治家、セキュリティ問題の専門家は、香港警察が場当たり的な意志決定、現場の士気低下や怒りなどの問題に悩んでいると警告する。前線の警官は、人気がない香港行政府に対する市民らの怒りを目の当たりにしている。

「現場レベルは当惑し、混乱している」──。今もかつての同僚と交流がある元警察官はこう話す。「大事なときにリーダーシップが欠如しているのは明らかで、政府からの十分な支援がないと感じている。それが指揮官レベルに影響を与えている」

ロイターは香港警察に確認を求めたが、警官の士気低下などについて直接的な回答はなく、「暴力的な抗議行動により、法の支配が深刻に損なわれている」、「香港の法律を守る使命を負う警察は、公共の安全と秩序を維持するため、断固として最前線に立つ」とした。

抗議活動の現場で「政府の顔」となる警察は、市民の怒りのターゲットになりやすい。しかし、デモの参加者によれば、警察はこれまでも過剰な暴力を振るい、高圧的な監視手法を駆使しているという。

英国は1997年、抗議する権利を含めた幅広い自由と自治の維持が保障されることを条件に、世界の一大金融ハブである香港を中国に返還した。

香港では犯罪容疑者を中国本土に引き渡すことを認める条例案をきっかけに、先月発生した大規模な抗議行動は、ほぼ毎日行われるデモへと発展している。

香港行政府は条例案をもはや「死んだ」としているが、活動家たちは正式に廃案するよう要求を続け、警察の行動に対する第三者による調査、民主改革、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官の辞任を求めている。

「不人気なイヌ」とウィキに書き込み

先週末、2カ所で平和的に行われた抗議行動が、警棒を振るう機動隊員と活動家が衝突する事態に発展した。このうち1つは、日曜日の買い物客で賑わう郊外のショッピングモールで発生した。

6月に香港中心部で起きた大規模な衝突では、警察が催涙ガス、ゴム弾、ビーンバッグ弾を使って活動家を撃退した。その数日後、数千人の群衆が警察本部を包囲し、幹部や若手職員が数時間にわたって閉じ込められた。

現役のある警察幹部は、政治的な対立に解決が見えない現実の中で、香港の警察官およそ3万人の間で不安感がさらに高まっていると話す。「私たちは未知の領域に入っている」、「どこに向かっているのかは誰も知らない」と語る。

警察官およそ2万人が加入する警察労働組合は今週、部隊の指揮官に書簡を送り、警察官の安全と精神衛生が守られるよう、改めて保証を求めた。「戦術及び装備を含めた状況について、上層部が確信を持てない場合」は危険な状況下に派遣すべきではないとしている。

複数の警察官は、傘やヘルメット、通りのベンチなどを使って戦う態勢を強めている一部の中心的な活動家は別として、小規模で平和的な集会でさえ激しい罵声が浴びせられることにショックを受けたと話す。

ロイターの記者も先ごろ、通りを行き交う市民が警察官の一団に罵声や怒号を浴びせる様子を目撃した。写真を撮影していた私服警察官を追い払う光景もみられた。オンライン辞典のウィキペディアでは「香港警察」のページがハッキングされたとみられ、「人気がないイヌ」という単語が書き込まれた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中