最新記事

テクノロジー

音楽ストリーミング配信は環境に優しくない?

Music’s Carbon Footprint

2019年5月14日(火)16時40分
マット・ブレナン(グラスゴー大学准教授)、カイル・デバイン(オスロ大学准教授)

音楽業界の「脱物質化」に伴い温室効果ガスの排出量はむしろ増加している URBANCOW/ISTOCKPHOTO, DELMAINE DONSONーE+/GETTY IMAGES

<レコードやCDの時代より格安に楽しめるが目に見えない環境コストは増加する一方だ>

音楽ファンがこぞってLPレコードを買いあさった時代を懐かしむ人は多い。彼らは週末になると地元のレコード店でお気に入りの1枚を買い求め、何度も聴き入った。

毎年4月の第3土曜日に開催される「レコードストア・デイ」は、ストリーミング配信が主流となった現代に生き残りを模索する実店舗を応援しようと、10年ほど前に始まった国際イベント。今でもこの日ばかりは世界各地のレコード店で、好きなアーティストの限定版を買い求める人々の行列ができる。

かつての音楽ファンは現代よりも音楽に大きな価値を見いだしていたと言われる。音楽の「黄金時代」を懐かしむベビーブーマー世代からは、現状への不満の声も聞かれる。だが、そうした指摘は事実だろうか。

納得できない私たちは、データを分析して彼らの主張の正当性を検証してみた。すると、想像以上に多くの誤解があることが明らかになった。

私たちはアメリカの音楽業界の古い資料をひもとき、LPレコードやCDなどそれぞれの時代に一世を風靡した音楽記録媒体が、経済と環境に与える負荷を比較した。その結果、まず浮かび上がったのは、音楽を所有するという贅沢のために人々が喜んで支払う金額が劇的に変化してきたことだ。

蓄音機で再生するシリンダーレコードの製造数が最多だった1907年、その小売価格は現在の貨幣価値で13.88ドルだった。47年に製造数がピークに達したSPレコードは10.89ドルだったが、77年のLPレコードの価格は28.55ドルに跳ね上がった。

その後、88年に製造数が最多となったカセットテープは16.66ドル、2000年のCDは21.59ドルと続く。しかし13年にダウンロード版が全盛期を迎えると、その価格は11.11ドルにまで低下した。

低価格化の流れは、1週間の給与に占める各音楽媒体の小売価格の割合を見れば明白だ。1977年にはLPレコード1枚の価格はアメリカの平均的な週給の4.83%を占めていたが、2013年のダウンロード版は週給のわずか1.22%だ。

音楽配信技術の登場によって音楽消費のビジネスモデルも変化している。今やスポティファイやアップルミュージック、パンドラなどのストリーミングサービスを利用すれば、週給のわずか1%余りの利用料でほぼ全ての音楽にアクセスすることができる。

巨大サーバーの電力消費

一方、環境への負荷はどう変化してきたのか。直感的には、CDなどの生産が減れば温室効果ガスの排出量も減少するように思える。

77年にアメリカの音楽業界で製造されたプラスチック製品は5800万キロ。CD全盛期の2000年には6100万キロに増加したが、ダウンロード版とストリーミング配信の普及に伴い、16年には800万キロにまで減少している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ヨルダン国王、イスラエルのラファ侵攻回避訴え 米大

ワールド

ロシア凍結資産、ウクライナ向け武器購入に充てるべき

ビジネス

ドル154円半ばへ続伸、豪ドルは急落前の水準回復

ビジネス

中国EVメーカーNIO、初の量販モデルを月内に発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中