最新記事

アメリカ社会

米国、自殺未遂でERを受診した子どもの数が倍増している

2019年4月18日(木)19時00分
松岡由希子

自殺は若い世代で2番目に多い死因 (写真はイメージ)Boyloso-iStock

<米国で「自殺未遂や自殺念慮により緊急救命室(ER)を受診した18歳未満の子どもの数が2007年から2015年でほぼ倍増している」という調査結果が明らかに>

この10年でほぼ倍増

米国で「自殺未遂や自殺念慮(自殺に対する思考が精神を支配している状態)により緊急救命室(ER)を受診した18歳未満の子どもの数が2007年から2015年でほぼ倍増している」というショッキングな調査結果が明らかとなった。

加モントリオール・チルドレンズ病院のブレット・バーンスタイン博士らの研究チームは、全米病院外来医療調査(NHAMCS)の2007年から2015年までの調査データを用いて、18歳未満の子どもを対象に自殺未遂や自殺念慮による緊急救命室の受診状況を分析し、2019年4月8日、その結果を小児医学学術雑誌「JAMAピーディアトリクス」で発表した。

これによると、18歳未満の子どもの自殺未遂や自殺念慮による緊急救命室の年間受診件数は2007年時点の58万件から2015年には112万件へと約1.9倍増加し、緊急救命室の受診件数全体に占める割合も、2007年時点の2.17%から2015年には3.50%に増えている。

自殺は若い世代で2番目に多い死因

米国疾病管理センターによると、自殺は米国の10歳から34歳までの若い世代で2番目に多い死因だ。自殺未遂や自殺念慮は、将来の自殺につながりかねない重要な予測因子と考えられている。

研究チームでは、18歳未満の子どもが緊急救命室を受診した5万9921件のケースを分析したところ、そのうち1613件が自殺未遂や自殺念慮によるものであった。受診者の平均年齢は13歳で、5歳から11歳未満の子どもが43.1%を占めている。

研究チームは、18歳未満の子どもの自殺未遂や自殺念慮による緊急救命室の受診件数が増加している原因について「複数の因子が関係しているとみられ、結論づけることはできない」としながらも、地域レベルでのメンタルヘルスケアの体制整備や緊急救命室を受診した後のフォローアップなど、子どもの自殺を予防するための施策を積極的に講じるべきだと説いている。

目標達成へのプレッシャーやネットいじめも要因か......

このような調査結果に対し、児童精神科医でもある米ハーバード大学医学大学院のジーン・ベレシン教授は、米メディアCNNの取材で「自殺や抑鬱状態が明らかに増えている」と述べ、その原因として「現代の子どもは目標達成へのプレッシャーや学校でのプレッシャーなどを感じ、昔の子どもに比べて、将来、生計を立てられるかどうかの不安をより強く感じている」と分析する。

また、ベレシン教授は、ソーシャルメディアの普及でより深刻化しているネットいじめも要因のひとつに挙げている。米国疾病管理センターの調査では、米国の高校生の約15%が「過去1年間でネットいじめを受けた」と回答し、ピュー研究所の調査では、米国の10代の若者の59%が「ネットいじめを受けたことがある」と答えている。

米国では、子どもたちの心のケアを専門に担う児童精神科医が不足しているのも現状だ。米国児童青年精神科学会(AACAP)によると、米国50州のうち41州で、子ども10万人あたりの児童精神科医の人数が17人未満にとどまっている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国EVメーカーNIO、初の量販モデルを月内に発表

ビジネス

午前の日経平均は反発、連休中の米株高で 大型ハイテ

ビジネス

米ボーイング新型宇宙船「スターライナー」打ち上げ延

ワールド

中国気候変動特使、8─9日にワシントン訪問=米国務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中