最新記事

宇宙

土星最大の衛星タイタンで深さ100メートル超の湖が発見される

2019年4月23日(火)18時30分
松岡由希子

タイタンの炭化水素の海が太陽光を反射している近赤外線画像 Credits: NASA/JPL-Caltech/Univ. Arizona/Univ. Idaho

<土星探査機カッシーニが取得したデータを解析したところ、メタンを主成分とする深さ100メートル超の湖が発見された>

土星の第六惑星で最大の衛星でもあるタイタンは、太陽系において、地球を除き、地表で安定した液体の存在が確認されている唯一の天体だ。タイタンでは、平均マイナス180度という低温ゆえ、メタンやエタンなどの炭化水素が液体の状態で地表に安定的に存在している。

そしてこのほど、地球で水が氷、水、水蒸気の3つの形態の間で変化しながら絶えず循環しているように、タイタンでも、メタンとエタンの循環が起こっていることが明らかとなった。

メタンを主成分とする深さ100メートル超の湖を発見

アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)によって開発された土星探査機カッシーニは、土星系に到達した2004年から2017年のミッション終了まで、レーダー探知機を用い、160平方キロメートルにわたってタイタンの地表にある湖や海をマッピングした。

1024px-PIA10008_Seas_and_Lakes_on_Titan.jpg

タイタンの北極地域の疑似カラー画像。青色は炭化水素の海、湖 NASA / JPL-Caltech 2007


米カリフォルニア工科大学のマルコ・マストロジュゼッペ研究員らの研究チームは、カッシーニが最後にタイタン近傍を通過した2017年4月22日に取得したデータを解析し、タイタンの北半球において、メタンを主成分とする深さ100メートル超の湖を発見した。

降り注いだ液体メタンの雨により、地球のカルスト湖と似たプロセスで、何千年にもわたって形成されたものとみられている。研究チームは、2019年4月15日、この研究成果を学術雑誌「ネイチャーアストロノミー」で公開している。

季節で満ちたり干上がったりする池

また「ネイチャーアストロノミー」では、同日、タイタンの北半球西部で発見された浅い小さな池に関する研究論文も公開している。29.5年周期のタイタンでは季節とともにメタンの蒸発量や降水量が変化すると考えられてきたが、タイタンの北半球ではこの見方を裏付ける現象が確認されていなかった。

米ジョンホプキンス大学応用物理学研究所のシャノン・マッケンジー博士らの研究チームは、この研究論文において、タイタンの北半球西部で冬期に観測された3カ所の小さな池が7年後の春分までに消滅していたことを明らかにした。

池にあった液体は、冬から春までの間に蒸発したか、地面に流入したものとみられている。研究チームでは「池の位置や大きさ、寿命が、堆積物の形成、季節の天候、気候の進化、さらには居住性にも影響を与えているのではないか」と考察している。

これら2つの研究成果は、タイタンの湖の性質や炭化水素の循環のメカニズムを解き明かすものとして評価されている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

OPECプラス、6月会合で増産の可能性低い=ゴール

ビジネス

介入有無にはコメントせず、政府関係者が話した事実な

ビジネス

3月実質賃金2.5%減、24カ月連続マイナス 減少

ワールド

EU、ロシア凍結資産活用で合意 利子でウクライナ軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中