最新記事

人種問題

米仏で連鎖...反ユダヤの動き、今年に入りフランスで69%増

2018年11月16日(金)18時10分
松丸さとみ

今年の3月、パリで高齢のユダヤ人女性が自宅で刺殺され、遺体に火をつけられる事件が発生。「ストップ レイシズム」と掲げ、女性を追悼する人々 Jean-Paul Pelissier-REUTERS

<フランスではユダヤ人への嫌がらせ行為などの「反ユダヤ主義の動き」が急増していることがわかった>

「新たな水晶の夜のよう」

1938年11月9?10日に、ドイツで「水晶の夜」(クリスタルナハト)という事件が起きた。フランスのパリでドイツ大使館の職員がユダヤ系ポーランド人に暗殺された事件を受け、ナチスによるユダヤ人への迫害がドイツ全土で行われたのだ。

この事件で少なくとも91人のユダヤ人が死亡し、2?3万人が強制収容所に送られたとされている。ユダヤ人が経営する店舗のガラスなどが割られ、道路にはガラスの破片がキラキラ輝いてまるで水晶のようだったので、「水晶の夜」と呼ばれているという。

この事件から80年となる今年、フランスではユダヤ人への嫌がらせ行為などの「反ユダヤ主義の動き」が昨年より増加し、最初の9カ月で69%増となったという。フランスのエドゥアール・フィリップ首相が自身のフェイスブックで明らかにした。

仏国際ニュース専門チャンネル「フランス24」によると、フィリップ首相は、現在の反ユダヤ的な流れは「まるで新たな水晶が割れているようだ」と、80年前の「水晶の夜」を引き合いに出して表現した。

欧州最大のユダヤ人口を抱えるフランスで69%増

フランス24によると、フランスのユダヤ人の人口は欧州最大で、その規模は世界では3番目となる。フランスの人口に占める割合でいうとユダヤ人はわずか1%以下に過ぎないが、2017年には「人種または宗教が動機となった暴力行為」に分類された事件のうち、40%近くがユダヤ人をターゲットとしたものだったという。

とはいえ、2015年に過去最多を記録した後、反ユダヤの動きはその後減少し、2016年にはこれが58%減、2017年にはさらに7%減となっていた。これが、今年になって突然また増えたというのだ。

米インディアナ大学の歴史学者であるドイツ人のグンター・ジケリ准教授はフランス24に対し、こうした反ユダヤの動きが増加した原因を突き止めるのは難しいと話した。反ユダヤ主義の活動について信頼できるデータはフランスと英国のみにしかないというジケリ准教授は、反ユダヤの動きにおいてこの2カ国には密接な関係があると説明する。反ユダヤ主義の高まりは通常、この2カ国で波のように連鎖して起こっているというのだ。昨年は英国でかなり大きな波が起こったと指摘する。

ジケリ准教授はまた、他の反ユダヤの活動がきっかけになって起こることが多いとも説明している。10月27日に、米国ペンシルベニア州のピッツバーグにあるユダヤ教礼拝所で発生した銃乱射事件のようなものが、引き金になる可能性もあるというのだ。この事件では、11人が犠牲になった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中