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韓国事情

韓国の「働き方改革」、週52時間勤務制導入で、想定外の混乱招く

2018年10月25日(木)15時30分
佐々木和義

残業できず、経済不安の労働者

さらに、従業員が1人でも時間を超過すると罰金が科され、刑事罰の対象にもなる。定時に合わせてパソコンを使えなくするPC-Offを採用する企業が増え、量販店大手のEマートはさらに進んで午後2時以降の会議や喫煙、ティータイムを控えるよう従業員に呼びかける。終業2時間前の午後4時を過ぎると私用電話や休憩室の使用に加えて、同僚に話しかけることすらはばかられるという。

勤務時間の短縮を歓迎する会社員がいる一方、働く権利を訴える人も少なくない。雇用労働部が52時間を超えて勤務していた107万人余りを調査したところ、52時間制導入で平均月収が38万8000ウォン減少していた。

上限の68時間近く勤務してきた労働者にとって、時間にすると23.5%の時間短縮だが、休日手当や夜勤手当、超過勤労手当等の割増支給を考慮すると手取り収入は20%から30%減ることになる。生活の質を高めるはずの52時間制が、経済不安を高める結果になるのである。

雇用拡大の期待が、省人化と海外移転

労働組合が強い大企業は減少した収入の一部を補填するとみられるが、資金力が乏しい中小企業は時間短縮がそのまま手取り収入の低下に直結する。従来から指摘されている大企業と中小企業の賃金格差はさらに広がり、優秀な若者が中小企業を嫌って大企業への就職を求めることになりかねず、格差はますます広がるだろう。

残業時間の削減がそのまま雇用拡大に繋がるとは限らない。雇用労働部の調査で人員補充を計画していると回答する企業もあるが、自動化設備等の導入が進んでいる。量販店も営業時間の短縮など省人化を進めており、工場や研究所を海外に移転する動きもある。

新製品開発の追い込み時期には勤務時間が長くならざるを得ず、繁忙期に勤務時間を増加させて、その分を閑散期に減らすなど業種や職種によって弾力的な運用が望ましいと専門家は指摘している。

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