最新記事

韓国社会

デッドプールからセウォル号遺族までディスる韓国ネットの闇「イルベ」とは

2018年6月15日(金)20時30分
杉本あずみ(映画配給コーディネーター)

故・盧武鉉元大統領をディスった広告をNYに掲載


NYのタイムズスクエアに故・盧武鉉元大統領の誕生日を祝うフェイク広告がイルベ会員によって出された。大統領の顔をコアラとコラージュした「ノアラ」やDJに仕立てたMCムヒョンなどやりたい放題だ。 YTN News / YouTube

ほかに多いのが、故・盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領を茶化した合成などだ。イルベたちは右翼傾向が強いのが特徴だ。その反対の立場だったノ・ムヒョン元大統領は彼らには格好の攻撃対象で、亡くなった今でもいたずらの象徴として使われる。今年1月25日にはニューヨークのタイムズスクエアにて野外の巨大広告にノ・ムヒョン元大統領をパロディーにした広告を流し、担当した広告代理店が謝罪する事態となった。

どの映画ポスターも非常によくできており、高画質でパッと見ただけでは本物と見分けがつかないという。前述の「暗殺」のポスターは、そのノ・ムヒョン元大統領の顔を合成したイルベ作成ポスターを、SBSの番組「一夜のTV芸能」が本物と間違って放送してしまい物議を呼び、翌日には制作陣が謝罪文を発表する騒動となった。

気に入らない映画にはレビュー点数テロ

ポスター問題だけではない。イルベたちによる映画のレビュー点数テロも大きな問題だ。2017年に韓国で公開された「軍艦島」。そして、今春日本でも公開された「タクシー運転手 約束は海を越えて」がその標的となりニュースにも取り上げられた。もともと韓国の映画ファンは口コミやネット上のレビューを参考にする人が多いが、特に大手ポータルサイト「NAVER」のレビュー点数は、映画関係者も無視出来ないほど影響力がある。

サイトでは、映画に対し1〜10点の☆の数を付けることができるが、この映画2作についてイルベたちの間で低得点をつけようという運動が広まり、一気に総合点数が下がった。特に、「タクシー運転手 約束は海を越えて」の場合は映画封切前にもかかわらず、低得点を付ける人たちが集中し、映画関係者らを困惑させた。

テレビ局もイルベに感化される始末

これまで紹介した事件はネット民たちの悪質ないたずら程度のものだったが、今回笑えない事件が発生した。公営放送局MBCのバラエティ番組「全知的おせっかい視点」にて、女性お笑い芸人イ・ヨンジャが韓国式のさつま揚げのような食べ物「オムッ(어묵)」を食べるシーンで、ギャグとしてニュース速報のパロディ風に編集された場面が映しだされたのだが、この背景として使われたのが高校生たちをはじめ300人以上の犠牲者を出した2014年の「セウォル号沈没事故」のニュース画面だったのだ。


この5月、韓国MBCのバラエティ番組内で、セウォル号事故当時のニュースの画面が「[速報]イ・ヨンジャ、オムッを食べる手を止めて衝撃の告白」というテロップを合成されて使われた。 JTBC News/ YouTube

セウォル号の事故は日本でも大きく取り上げられた惨劇だったが、時が流れ日本で報道されなくなったその後も、遺族らはデモや座り込みをして真相解明を求めていた。これに対してイルベたちは亡くなった犠牲者たちを「オムッ」と呼んで卑下し、ネット上で茶化すことが多かったが、そのことを知っている番組スタッフが意図的に編集したようだ。放送後、局側に非難が集中し緊急審議が行われ、MBC社長が謝罪し直ちに調査委員会を構成した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

サウジ6月原油販売価格、大半の地域で上昇 アジア5

ワールド

インドネシアGDP、第1四半期は予想上回る 見通し

ビジネス

バークシャー株主総会、気候変動・中国巡る提案など否

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中