最新記事

事件

トロント バン暴走事件の動機は性的欲求不満? 女性蔑視主義者「インセル」とは?

2018年4月27日(金)20時59分
モーゲンスタン陽子

トロント バン暴走事件の動機は性的欲求不満? Carlo Allegri-REUTERS

<多文化共生都市トロントで起きたバンの暴走事件は、10人が死亡、15人以上が負傷した。犯人は「インセル」と呼ばれる女性蔑視主義者だった>

23日の白昼、カナダ一の大都市トロントで、バンが意図的に歩行者を襲撃し、10人が死亡、15人以上が負傷した。これまでヨーロッパのようなテロや、アメリカのような銃乱射事件とはほぼ無縁であると感じていたトロント市民たちは、たいへんな衝撃を受けている。

多民族国家であるカナダでは、このような事件が起こった場合、犯人の民族的・宗教的バックグラウンドが軽率に取りざたされることはまずない。今回の容疑者アレク・ミナシアン(25)についても、SNSのコメントなどで言及されただけで、民族的・宗教的な関連は報道されていない。実際、テロ組織との関連もないようだ。

しかしながら、ミナシアンも所属するといわれる別の過激思想団体が急激に注目を集めている。おもにインターネット上で集う、「インセル」と呼ばれる女性蔑視主義者だ。

性的関係がもてないのは女のせい

20年以上前、「不本意な禁欲主義者(involuntary celibate)」という言葉を考案したのは、奇しくもあるカナダ人女性だった。同名のウェブサイトを立ち上げ、独り者の男女に出会いを支援するような場所になるはずだったという。

ところが、この言葉が勝手にincel「インセル」と縮められ、インターネット上で女性蔑視主義者を現すようになった。

長年、言葉の一人歩きを恐怖とともに見守ってきた女性は今回の事件を受け、グローブ・アンド・メール紙に「核分裂を解明したあとで、それが戦争で兵器として使われていると知った科学者のような気分だ。いい気分ではない」と語っている。

インセルとは、恋愛および性的なパートナーが見つからない、あるいは自身に性体験のない原因が女性にあるとする男性たちだ。パートナーを持ち、ふつうの性生活を送る女性たちをみな娼婦のようにみなし、極端な場合、彼女たちを暴力やレイプで「罰する」ことを奨励する。

ミナシアンは事件前、フェイスブックに「インセルの反乱はすでに始まった! すべての『チャッド』と『ステイシー』を襲ってやる。最高紳士エリオット・ロジャー万歳」と書き込んでいる。

トロントの襲撃事件の被害者の大多数は女性だった。

インターネットに潜む闇

「チャド」「ステイシー」はインセルの使う用語で、性的に魅力があり、交際相手に困らない男女のことだ。エリオット・ロジャーは2014年にカリフォルニア州で、自身が童貞なのは自分を振った女性たちのせいであるとし、6人を無差別に殺害、多数の負傷者を出したあとで自殺した22歳の青年のことだ。インセルの世界ではときにERと言及され、英雄視されている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中