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サウジ「改革派」皇太子に期待し過ぎるな

2018年3月20日(火)15時00分
スティーブン・クック(米外交評議会上級研究員)

これはアラブ世界だけの問題ではない。ベネズエラでウゴ・チャベスが始めた「民主的革命」は、後継大統領のニコラス・マドゥロが経済破綻という形で完成させようとしている。オスマン帝国を倒してトルコ共和国を樹立したムスタファ・ケマル・アタチュルクによる政教分離の世俗主義さえ、今では多くの国民にとって魅力が薄れている。

一方で例外もある。シンガポール、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールは、発展と安全保障と国際的な地位の確立において、堅実な実績を収めている。非民主主義的ではあるが基本的に強欲ではない政府が、富を築き、その富で優れたインフラを整備して、より長寿で健康的な生活とさまざまな機会を市民にもたらしている。

ただし、これらの成功例は、人口が少ないこと、独特の地理的条件、膨大な富、さらにはカリスマ的指導者という条件がそろった特別な事例だ。ほかの状況では、強権的指導者の国はたいてい搾取的になる。

大規模で複雑な社会で改革を実現するためには、ある程度の国民の合意と権限の移譲が必要だ。どちらも典型的な独裁者にとっては、いくら改革志向が高かったとしても受け入れ難い。

その結果、強権政治は社会の不安定を招き、暴力や腐敗、過激化などの病をもたらす。これは分かり切った事実に思えるのだが、欧米諸国は強権的支配者の考えに迎合するだけでなく、促進してきた。

エジプトのシシは、欧米からムハンマドほど温かく歓迎されているわけではないが、テロリストを残虐に殺害し、経済改革を推進する姿勢が主要国から称賛されている。政敵や批判を徹底的に封じるやり方も、形式的に非難されているにすぎない。

欧米の為政者にしてみれば、独裁者のほうが付き合いやすく見えるに違いない。何しろ、民主主義は厄介なものだ。世論に敏感な民主主義者より独裁者のほうが、例えばアメリカに迎合しても、それほど国内に気を使う必要はない。

民主主義は扱いにくい?

さらに、民主主義が選ぶ指導者は、欧米から見れば独裁者よりはるかに都合が悪い場合もあるだろう。リビアとイエメンが現在の混乱を生き延びることができるとしたら、おそらく強権的な支配者の下でのことだ。国際社会の指導者も基本的に彼らを歓迎し、流血と混乱がようやく終わることに安堵するというわけだ。

ただし、独裁者がもたらす安定と治安は決して堅固ではない。彼らの権力を脅かすような社会のひずみが生まれ、反発、抑圧、急進化、暴力の悪循環が繰り返されることになる。

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