最新記事

中東

サウジ「改革派」皇太子に期待し過ぎるな

2018年3月20日(火)15時00分
スティーブン・クック(米外交評議会上級研究員)

改革に突き進むムハンマド皇太子に性急すぎるという声も上がっている(3月7日、ロンドン) Simon Dawson-REUTERS

<欧米にもてはやされた独裁者たちの見果てぬ夢――抑圧的支配による民主的改革という矛盾>

「中東の狂犬」ことリビアのムアマル・カダフィ大佐は2000年代半ばに国際的孤立から脱し、主要な欧米メディアは彼を共感できる人物として報じるようになった。一方で、彼のトップダウンの改革が従来の暴力による支配と変わらないことは、ほとんど注目されなかった。11年のリビア内戦でカダフィが死亡した後は、混乱と残虐な暴力が国中を打ちのめしている。

カダフィは、欧米諸国から時期尚早に「改革者」ともてはやされた中東の指導者の典型的な例だ。どういうわけか、このところアラブ世界や欧米で、強権的指導者の人気が高い。

なかでもサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子に関する最近の報道は、国際的な指導者なら誰でも憧れるに違いない。3月7日に皇太子昇格後初の外遊でイギリスを訪れたムハンマドを、テリーザ・メイ英首相は手厚くもてなし、両国の経済的および軍事的関係の強化を売り込んだ。

独裁的指導者の人気が高まっている理由の1つは、ドナルド・トランプ米大統領だ。トランプは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領やフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領、エジプトのアブデル・ファタハ・アル・シシ大統領など「タフガイ」への共感を隠そうとしない。

欧米の政府が他国の支配者を選ぶことはできないが、彼らは独裁者が安定をもたらすという考えを信じているようだ。しかし現実には、強権的支配者は善意のあるなしにかかわらず、優れた実績を残していない。

50年代~60年代、アラブ革命によってエジプトでガマル・アブデル・ナセルが、アルジェリアでウアリ・ブーメジエンが、シリアでハフェズ・アサドが政権に就き、発展と社会改革と国力の増強を約束した。ただし、彼らが築いた国家は、機能したとしても短期間だった。

革命の情熱が薄れ、穏やかな経済成長が尻すぼみになると、その空白を武力が埋めた。彼ら革命指導者の後継者はイデオロギーで世論を動かそうとしたが、中途半端でしかなかった。

「チャベス革命」の末路

そもそも国家制度の構築ほど革命の英雄に無縁なことはない。ブーメジエンによるアルジェリアの独立戦争や、73年にナセルとアサドがイスラエルと戦った第4次中東戦争を、経済発展に必要な過程だったと言うのは無理がある。

その後、エジプトのホスニ・ムバラクや、アルジェリアのシャドリ・ベン・ジェディド、シリアのバシャル・アサドがそれぞれ大統領の座を継いだ頃には政権の正統性が弱まっていた。国が方向を見失いかけた状況では市民を抑圧的に支配する以外に、統制を取る方法はほとんど残されていなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドネシア貿易黒字、4月は35.6億ドル 予想上

ワールド

韓国大統領、ウクライナ支援継続表明 平和サミット出

ビジネス

エーザイ、内藤景介氏が代表執行役専務に昇格 35歳

ビジネス

シャオミ、中国8位の新興EVメーカーに 初モデル好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中