最新記事

日本社会

森友問題、責任所在を曖昧にした日本の習慣「ソンタク(忖度)」

2018年3月19日(月)17時40分

3月15日、安倍晋三首相(右)を脅かす政治スキャンダルの波紋が広がる中、「ソンタク(忖度)」として知られる日本の習慣が、その責任究明を複雑なものにしている。都内で2月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)

安倍晋三首相を脅かす政治スキャンダルの波紋が広がる中、「ソンタク(忖度)」として知られる日本の習慣が、その責任究明を複雑なものにしている。ソンタクとは、「暗黙の指示に従う」ことだと、大ざっぱに言い換えられる。

大阪市の学校法人「森友学園」に対する国有地売却を巡る決裁文書に財務省による文書改ざんがあったことが明るみになったことで、安倍首相と麻生太郎財務相に非難が集中している。昭恵首相夫人が同学園が設立する予定だった小学校の名誉校長を務めていた経緯もあり、隠ぺい疑惑が浮上している。

安倍首相は自身や妻が便宜を図ったことはないと、一切の関与を否定。麻生財務相も、隠ぺいを指示したことはないと明言している。

もし官僚たちが上司の意思を推し量ろうとして、明確な指示を受けずに行動するという「ソンタク」に基づき、国有地売却に関する関連文書を改ざんしたのであれば、厳密には、安倍首相と麻生財務相の主張は正しいかもしれない。

「暗黙の期待をかけることは、責任逃れには素晴らしい方法だ」と、テンプル大学日本校アジア研究学科ディレクターのジェフリー・キングストン教授は指摘する。

「上司は『指示しなかった』と言うことができる。また、部下も『指示に従っている』と言える。責任の所在がどこにもない」

●「ソンタク」とは何か

ソンタクとは本来、「推量、推測、憶測」することを意味し、昔からある言葉だが、日常会話ではほとんど使われない。

朝日新聞によると、この言葉は古代中国の詩に登場し、元々は人の悪巧みを見通す能力を意味していたという。

2016年、80代の明仁天皇は、国民に向けたビデオメッセージの中で、ご自身の年齢と健康を踏まえ、公務を務めていくのが困難となることから、生前退位の意向を示された。

「戦後70年という大きな節目を過ぎ、2年後には平成30年を迎えます」と、2018年に言及され、国民は天皇が今年、退位することを望んでおられるのではないかと、お気持ちを「推し量った」。そこには否定的な含みは全くない。

しかし昨年、森友学園への国有地売却を巡るスキャンダルが発覚し、当時、同学園の理事長を務めていた籠池泰典被告が記者会見で、直接的な利益誘導があったとは考えず、むしろ「ソンタク」があったと思うと語ってから、この言葉が注目されるようになった。

ソンタクは昨年、出版社2社から「今年の新語」に選ばれ、森友問題との関連から、より否定的な意味合いをもつようになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中