最新記事

東南アジア

インドネシア民主主義の試金石となるか  注目のジャカルタ州知事選が15日投票

2017年2月14日(火)11時34分
大塚智彦(PanAsiaNews)

このため、国家警察や人権活動家、穏健派イスラム教団体などがこぞってアホック批判とイスラム教が別のものであり、選挙という政治と宗教の相互尊重を訴える事態になったのだ。特に国家警察は急進派組織の代表がコーランの一説をアラビア文字で書き込んだインドネシア国旗を集会で使用したことを「国家シンボル侮辱罪容疑」に、スカルノ元大統領を演説で引用して「国家5原則はスカルノの尻にある」とビデオで発言したことを「死者冒涜罪容疑」に問うなどあらゆる対抗手段で法的に牽制、反アホック運動の先鋭化阻止に動き出して選挙の公正さと中立の維持に懸命となっている。

魑魅魍魎が跋扈

今回の知事選を特徴づけているもう一つの側面が旧体制、前政権など復権を画策するグループによる政治の関与だ。アグス候補は父親のユドヨノ前大統領とその政党「民主党」やイスラム政党の後押しを受ける。アニス候補は野党「グリンドラ党」のプラボウォ党首がバックについている。同党首はスハルト元大統領の娘婿で軍人出身、中東でのビジネスの成功から巨額の資金を選挙戦に投入、次期大統領選への出馬意欲も示している。

イスラム急進派が組織した反アホックデモの参加者は大半が選挙区外から動員されたイスラム教徒で、日当、交通費、弁当代などが支給されていたとの指摘があり、その資金源や選挙運動資金を巡る問題も浮上している。一方のアホック陣営は「選挙資金は寄付で賄っている」と公言するほどクリーンな選挙を展開している。

これまで3回行われたテレビ公開討論会でも年齢と軍人という過去から実績がなく抽象的表現や的外れのアホック批判で選挙戦の進展に従い支持率を落とすアグス候補、イスラム教徒の装束で元教育文化大臣の経験を生かして教育問題で低所得イスラム教徒の支持を少しづつ獲得しているアニス候補。聴衆、有権者を引き付ける「実績に基づく具体的政策とユーモア、機知にあふれた演説」で「裁判の被告」という立場ながらも選挙戦後半に支持を急速に伸ばしてきたアホック候補。候補者だけを比較すれば州知事に最もふさわしい人物は一目瞭然だ。

それを阻止するためにイスラム急進派などは「宗教冒涜」を持ち出し、キリスト教徒で中華系インドネシア人、スマトラ州の島嶼部出身であるアホック候補を「知事に相応しくない」と攻撃し、他の候補者も「黙認」という形でそれに乗じてきた、というのが今回の選挙戦の基本的構図なのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、31日発射は最新ICBM「火星19」 最終

ワールド

原油先物、引け後2ドル超上昇 イランがイスラエル攻

ビジネス

アップル、四半期業績が予想上回る 新型iPhone

ビジネス

インテル、第4四半期売上高見通し予想上回る 第3四
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後はさらなる「倒産増加」が予想される
  • 2
    「まるで睾丸」ケイト・ベッキンセールのコルセットドレスにネット震撼...「破裂しそう」と話題に
  • 3
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 4
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 5
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 6
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 7
    天文学者が肉眼で見たオーロラは失望の連続、カメラ…
  • 8
    中国が仕掛ける「沖縄と台湾をめぐる認知戦」流布さ…
  • 9
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 10
    自爆型ドローン「スイッチブレード」がロシアの防空…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符…
  • 5
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 7
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 8
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 9
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 8
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 9
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 10
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中