最新記事

キューバ

カストロの功罪は、死してなおキューバの人々を翻弄する

2016年11月28日(月)17時30分
トレイシー・イートン

PRENSA LATINA/REUTERS

<キューバ革命を成し遂げ、約半世紀に渡ってキューバを主導したカストロが死去した。その業績の評価は賛否の両極端に分かれるが、アメリカへの亡命者を含むすべてのキューバ人がカストロに運命を左右されたことは確かだ>(写真:1976年に撮影されたカストロ前議長)

 フィデル・カストロが死んだ、または死にそうだ、というデマは、これまでに何度となく世界中の政敵から発せられてきた。しかし今度ばかりは本当だ――キューバ国営テレビが25日、カストロの死去を報じた。

 一面でカストロは暴君であり、キューバ経済を破壊し、国民の自由を奪い、100万を超える人々を国外亡命へと追い込んだ悪党だ。フロリダ州で「アルファ66」という過激な反カストロ団体を主宰するエルネスト・ディアスは、「カストロは悪魔だ。世界最悪の独裁者として記憶されることになるだろう」と語った。ディアスはキューバ在住中、社会主義政権の転覆を図ったとして22年間、刑務所に入れられていた。

 その一方でカストロは、発展途上国の救世主であり、社会的な不公正と戦い続けた闘士だとも見られている。「カストロは、自分を信じ、共に戦う全てのキューバ国民に対して、深い愛情と尊敬を持っていた」と語るのは、1959年にバチスタ政権を打倒した革命グループで財務担当を務めていたマリア・アントニア・フィギュエラだ。「キューバは南北アメリカで最初の自由な国家であり、現在も自由な国家であり続けている」

【参考記事】キューバ、歴史的共同会見と禁輸解除への道

 カストロは、1959年のキューバ革命以降、2008年に健康上の理由で弟ラウルに国家評議会議長の職を移譲するまでキューバの最高指導者だった。その統治期間のほとんどは、アメリカとの敵対関係にあった。CIA(米中央情報局)の支援で亡命キューバ人部隊が社会主義政権打倒を試みた61年の「ピッグス湾事件」など、キューバ情報当局によるとカストロは600回以上の暗殺計画をくぐり抜けている。東西冷戦の終結、ソビエト連邦の崩壊という国際情勢の荒波も乗り越え、アメリカの経済制裁という世界的に見ても長期で厳しい経済制裁を耐え抜いた。

「50年以上に渡って、アメリカから酷い経済封鎖を受けたにもかかわらず、社会主義革命が倒されることはなかった」と、キューバの芸術家アレクシス・レイバ・マチャドは言う。

 しかし、カストロの独裁的な政治手法が反発をかっていたことも事実だ。首都ハバナ郊外で暮らす反体制活動家ユニエル・ロペスは、カストロ政権の政策の中でも経済は最悪だったと批判する。「革命当初、カストロは多くの公約を掲げたが、そのほとんどは実現できなかった。将来、歴史がどのようにカストロを記憶するかどうか分からないが、キューバは革命以前の方が繁栄していた」

 反政府グループのメンバー、アレリス・ブランコは、様々なキューバの経済問題の根底にカストロの政策があると言う。「カストロのせいですべてのキューバ国民は貧困にあえいでいる。すべてはカストロの責任だ。キューバでは何一つ成功していない。そして前進もしていない。キューバは日一日と後退している」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ6連騰、S&Pは横ばい 長期金利

ビジネス

エアビー、第1四半期は増収増益 見通し期待外れで株

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、金利見通しを巡り 円は3日

ビジネス

EXCLUSIVE-米検察、テスラを詐欺の疑いで調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中