最新記事

対談

「保守」「リベラル」で思考停止するのはもうやめよう~宇野重規×山本一郎対談(1)

2016年8月5日(金)16時03分
BLOGOS編集部

blogos160805-1-2.jpg

揺らぐ「保守」「リベラル」の定義

山本:そうは言っても、今の日本において、どういったものが「保守主義」として定義できるのか、すごく悩ましい。いろんな人が保守を自認して「これが保守主義的な態度だ」と言うものの、よく見てみると単なる民族主義だったり、国家的な全体主義だったりする。たとえば英語圏では"ナショナリスト"とみなされる人が、日本では"コンサバティブ"とみなされるといった具合に、どうしても定義に"ゆらぎ"が生じています。

 加えて保守に、"ネット右翼"みたいなものや、反動的なヘイトスピーチまでやってのける民族主義的なものまでが含まれるというイメージがあり、若い人達からすると、なんでもかんでもとりあえず"保守"になってしまっている。

 一方で法哲学者の井上達夫さん(東京大学教授)が、「リベラル勢力とリベラリズムは違う」というお話をされているように、「リベラル」の定義も誤解されているように思います。

宇野:確かに今、「リベラルとは何ぞや」ということが迷走しています。それに対して「保守」は明確かと言うと、こちらはさらに混乱しているんじゃないでしょうか。

 メディアも含め、「保守」「リベラル」というラベリングをして思考停止に陥ってしまうのはもうやめたほうがいい。本当は、社会の方向性や、どんな価値を守ろうとしているのか、で定義すべきです。

山本:「右」「左」という言い方も、今の使われ方はかなり変ですよね。あるいは「保・革」と言われても「え~!?」って思ってしまう、「戦後保守政治」というのも、ちょっと違う気がする。

blogos160805-1-3.jpg

「保守思想」の祖・エドマンド・バークが考えたこと

山本:そこで、本当の意味での「保守主義者」は意外と少ないのでは?という疑問が出てきます。

 ただ、「保守思想」の原点であるエドマンド・バーク*に遡って、英国国教会の流れを組む本来の「保守思想」が日本にうまく合致するのかと言うと、そういうわけでもない。宗教的なバックボーンが違いますからね。


*エドマンド・バーク(1729-1797)
18世紀の英国で下院議員として活躍した政治家・思想家。『フランス革命の省察』というフランス革命を批判する内容の著作を公刊したことから、「保守主義の父」として知られる。宇野氏によると、バークの保守主義は、歴史的に培われた制度や慣習を保守しながらも、自由を尊重し、秩序ある漸進的改革を目指すものだとされる。

宇野:「保守とは何ぞや?」と聞くと、皆さん必ずバークを出してきますよね。彼がフランス革命を批判したことから、「抽象的な理念による革命はいけなくて、漸進的な改革を良しとするのが保守だ」というようなことをおっしゃるんですが、「本当にバークって、それだけを言った人なのかな」と思うことも多いんです。

 というのも、バークはとても深い人物なんですね。体制派に見える側面もあるが、実はそうでもない。彼はアイルランドという、グレートブリテン(以下、英国)の中ではマイノリティの出身で、王様とはケンカするし、英国と敵対しているはずのアメリカの独立革命は擁護するし、さらに東インド会社のような植民地支配に対しても文句を言ってしまう。

 彼が国王にまで噛みついたのは、「自由を大切にしながら少しずつ変えていく、それがイギリスの良き伝統だ」という信念があったからです。

山本:バークははっきりと「アメリカ人の自由に対する考え方は、我々と同じなのであって、擁護されるべきだ」と言ってしまうわけですよね。イギリスにとっては、植民地が独立されかねない瀬戸際の状態で、野党の理論派であるバークが、自由の考え方はイギリスの培うべきものと等しいと言い始めた。宇野先生の『保守主義とは何か――反フランス革命から現代日本まで』でもきわめて正確にその思想について解説されていますが、彼は単なる野党的な批判をするのではなく、「自由とは何か」をきちんと考えて、それがたとえイギリスの直接の国益にならなかったとしても、考え方が合致しているものに関しては擁護しています。

宇野:バークは議会や政党も非常に重視していました。政党とは国益のためにあるのであって、その実現の方向性をめぐって、分かれて競い合うものなんだと。だから対立はしても体制の全面的批判はしない。あくまで今の国政を前提に改革を目指すものなんだと。

山本:彼は父親が国教徒で、母親がカトリックという家庭で育ちましたから、そもそも多様性をはらんでいたわけですね。そこでうまく整合性を取っていくために、自由という概念やブリティッシュ・コンスティテューション(英国国体)に関する考え方などが整理されていった。だからこそ当時としても非常に破壊力のある批判ができたと思うんです。ただ、それをうまく日本に持ってくることができなかった。

宇野:それは大切な視点です。元々バークは文学青年ですし、美学の研究からスタートしているのですが、均整のとれた美ではなく、ある種の危うさを持った崇高さの概念からスタートしているんですね。

 その根っこには、自分の中の軋み合うようなアイデンティティと、多様な人間が一緒に生きていくんだという前提があったと思います。そこから人間が一緒に生きていくためのマナーとか、共存のための作法みたいなものを洗練させてきたのが、彼の保守思想であり、本来のイギリスの保守思想なんでしょうね。

 バークにとってフランス革命が気にくわなかったのは、「答えが一つ」だったからだと私は考えています。つまり、様々な声を許すのではなく「これが正解だ」「これが歴史の進歩だ、社会の発展だ。だから作りなおせ」というのがイヤだったんだと思います。

 つまり、みんなで様々な伝統を使いながらやっていくのが社会の発展なのに、答えは一つだと決まっていて、あとは力づくで実現するのが「進歩」だと言われると、それにはついていけないと。

山本:社会の知恵というのは、複数の世代に渡って築き上げられてきた"合理性の塊"なんですよね。それは、真の意味での多様性の包摂だったり、少数の意見の尊重だったりする。

 バークも「我々が大事にするべき価値とはなにか、伝統とはなにか?」ということを押さえて再定義し、社会情勢の変化や他国との関わり合いの中で、「ここは合わないから、改善してこう」と進んでいくのが「改革」だと考えたはずです。大切なのは、あくまで「改革」であって「革命」ではないと。だからこそ、フランス革命を批判したんだろうと思います。

宇野:つまり、「自分と意見が違うやつは出て行け」みたいな態度は「答えは唯一だ」という独善的な発想で、それは本来の保守思想じゃないんですよね。

 加えて「今の世代のことだけを考えてはいけない」という発想も大切です。バークは「過去の人々とのパートナーシップ」とも言っていますが、過去の世代が大切にしたものも受け継ぐし、場合によっては未来の人達の利益も考えていかなければならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日本の働き掛け奏功せず、米が相互関税24% 安倍元

ワールド

ロシアが企業ビル爆撃、4人死亡 ゼレンスキー氏出身

ビジネス

米関税24%の衝撃、日本株一時1600円超安 市場

ワールド

米連邦地裁、収賄疑惑のNY市長の起訴棄却 政権の「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中