最新記事

アジア

インドが実用化を目指す「究極の核」

潜水艦から発射する弾道ミサイルの実験を行ったインドは中国に対する抑止力になれるか

2013年2月28日(木)17時41分
ローリー・メドカフ

核開発競争 潜水艦に核を搭載できれば報復はしやすくなるが(インド海軍). Kamal Kishore-Reuters

 次にニュースをにぎわすのは北朝鮮の核実験か、東シナ海で領有権争いをする中国と日本の砲撃戦か──きな臭さの漂う東アジアに安全保障専門家の注目が集まる今、インド洋でミサイルがしぶきを上げても誰も気に留めないだろう。

 インドは先月末、核弾頭を搭載可能な潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行った。各種報道によれば、ミサイルの射程距離は700~750キロ。複雑化するインド・アジア・太平洋地域の「戦略の方程式」の一部として、無視できない存在になるとの意思表示だ。

 重要なのは、インドが潜水艦からの核兵器発射を目指していることだ。そうなれば理論的には、インドは核攻撃に対する報復能力を備えられる。

 潜水艦はしばしば究極の報復手段とされる。陸上の移動式発射装置と同じような役割を果たしつつも、敵に見つかりにくく、標的になりにくいからだ。

 しかし例えば、中国の弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)に対する抑止力をインドが持つようになるまでには、かなりの時間が必要なのは確かだ。インドは09年に初の国産原子力潜水艦アリハントを進水したが、まだ実戦配備はされていない。

 それにアリハントなどの潜水艦を核武装するには、大きな技術的課題もある。小型ミサイルに合うように核弾頭を小型化できるのか。さらなる核実験を行わずに小型化を実現できるのか。ミサイルの射程距離を伸ばせるのか──。

 中国とインドの核バランスが不均衡であることも重要な事実だ。中国にはインドを抑止する力があるが、その逆はまだ難しい。だから地政学と危機管理が最大の論点になる。

 インド海軍の核武装が時間の問題だとすれば、結局インド・太平洋の戦略図は安定するのか、不安定になるのか。インドと中国の関係にしろ、インドとパキスタンの関係にしろ戦争の可能性は高くなるのか、低くなるのか。今のところの見通しはあまり安心できるものではない。

 将来、核武装による対立が起きて重大な結果を招く可能性を考えれば、これらの国々がそうした問題を真剣に議論し始めるのは価値あることだ。

 中国とインドは、海上安全保障について対話を行うことでおおむね合意している。核の安定についてもそろそろ話し合いを始めるべき時期だろう。

From the-diplomat.com

[2013年2月19日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独仏首脳が会談、トランプ関税にらみ結束アピール

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、年央までにECB目標達成と確信

ビジネス

ECB総裁ら、緩やかな利下げに前向き 「トランプ関

ビジネス

中国、保険会社に株式投資拡大を指示へ 株価支援策
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 4
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 5
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    【クイズ】長すぎる英単語「Antidisestablishmentari…
  • 8
    トランプ就任で「USスチール買収」はどう動くか...「…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 8
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 9
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中