最新記事

イギリス

クレッグ英副首相は「反米」なのか

2010年5月25日(火)12時27分
ストライカー・マグワイヤー(ロンドン支局長)

イギリスのクレッグ新副首相(自由民主党)は「反米」なのか。ブラウン前首相は総選挙前のテレビ討論でそうだと明言している。

 やけっぱちの捨てぜりふだったと取れなくもない。結局のところ、クレッグは保守党のキャメロン首相をトップに発足したばかりの連立政権の中心人物となり、一方のブラウンは故郷スコットランドに戻って敗北をかみしめる身の上だ。

 それでもブラウンの発言には、大西洋の両側でまじめに議論されるだけのとげがあった。ブラウンの発言は「よくある中傷にとどまらなかった──真実味があった」と、クリストファー・メイヤー元駐米英大使は後日、語っている。メイヤーによれば、クレッグの外交政策の位置付けからは「戦略上のアメリカ離れ」が見て取れる。

「反米」の証拠としてよく引き合いに出されるのは、クレッグが今年3月にロンドンの王立国際問題研究所で行った演説だ。クレッグは50年代半ばのスエズ危機(第2次中東戦争)以来「イギリスの外交政策を支配してきた対米協調主義の見直し」を提唱。英政府は「ホワイトハウスとペンタゴンの言いなり」だと主張した。

 しかし批判派は、クレッグの微妙な言葉のあやを見落としている。彼は3月の演説で、米ミネソタ州での大学時代とニューヨークでのジャーナリズムの研修生時代を振り返った。「私もみんなと同じように対米協調主義だ......積極的で強固で比類なく親密な英米関係を維持することが、わが国の利益に不可欠だと思う。ただし、英米関係がすべてというわけではない」

 こうした発言は、クレッグの修正路線の真の重要性を浮き彫りにする。イラク戦争以後、英政界の主流はアメリカ盲従からいわゆる「特別な関係」へと移っていった。

 クレッグが外交政策で主導権を握るわけではない。だがキャメロン首相もアメリカとの「強固だが卑屈ではない」関係を提唱している。それでこそ分別ある指導者というもの。ブラウンだって、できるものならそうしたかったはずだ。

[2010年5月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中