最新記事

イギリス

「混迷」英選挙、意外な勝者と敗者

どの政党も過半数を獲得できなかった5月6日のイギリス総選挙。その隠れた「勝者」はイギリス女王、「敗者」は通貨ポンド?

2010年5月10日(月)10時50分
アン・アップルボム

次期首相? 第1党になった保守党のデービッド・キャメロン党首が政権を担うのか(5月7日、ロンドン) Darren Staples-Reuters

「あら、あら、あら」――5月6日のイギリス総選挙の結果を受けて、7日未明、イギリスのデイリー・テレグラフ紙は書いた。そう言いたくなるのも無理はない。近年のイギリス史上で最もエキサイティングな選挙は、複雑で矛盾に満ちた結果になった。

 政権奪還を狙った最大野党・保守党は第1党に躍進したが、過半数の議席は獲得できなかった。苦戦が予想された与党・労働党は、これまで強固な地盤だった選挙区で多くの議席を失ったが、予想外の選挙区でいくつか新たに議席を獲得した。

 台風の目と見られていた第3党の自由民主党を率いるニック・クレッグ党首は、「浮気相手にはいいが、結婚相手にはふさわしくない男」と思われていたらしい。事前の世論調査ではクレッグが支持を伸ばしていたが、いざ投票日になると、自民党の得票は伸び悩んだ。結局、自民党の議席は改選前を下回った。

 どの政党も単独過半数を獲得しない状況で、次の首相が決まるまでには、しばらく時間が掛かるかもしれない。しかし、既に勝敗がはっきりしている人たちがいる。その意外な勝者と敗者とは――。

勝者

1政治評論家 イギリス議会でどの政党も単独過半数を制していない状態(「ハング・パーラメント=宙づり議会」と呼ばれる)は、36年ぶり。どういうルールで議会が運営されるのか、どういう手続きで政権が樹立されるのかを知っている人はほとんどいない。36年前のことを知る評論家が脚光を浴びるだろう(ちなみに、当時は労働党のハロルド・ウィルソンが少数与党政権を組織し、政治は大混乱に陥った)。

2女王 法律上、退任する首相の辞職を認め、新しい首相を指名するのは、女王の役割。通常は儀礼的な権限に過ぎないが、もし政治の混乱が続くようであれば、女王が調停役を買って出ることになるかもしれない。政党間で政権協議がまとまらなければ、再び議会を解散して選挙を行う権限も女王にある。にわかに、女王の存在が大きくクローズアップされてきた。

3保守党の改革派 議席の過半数こそ獲得できなかったが、保守党は97年以来はじめて第1党になった。もっと古いタイプの保守政治家が党首だったら、このような結果は得られなかったに違いない

敗者

1ポンド いまイギリスは、最近の歴史の中で最も深刻な財政危機に見舞われているが、この危機に対処できる強力な政権が誕生するかどうかは不透明だ。投票日の翌朝、ポンドの対ドルレートは急落した。ロンドンで休暇を過ごしたい外国人には朗報かもしれないが......。

2遅い時間に投票所を訪れた有権者 想定外に投票率が高かったために、一部の選挙区で投票用紙が不足。締め切り時間ぎりぎりに投票所を訪れた有権者のなかには、投票できなかった人もいた。

3既成政治にうんざりしている有権者 労働党にも保守党にもうんざりだと言い、世論調査で自民党のクレッグを支持していたのがこの層。しかし選挙が終わってみれば、実に微妙な結果になった。なにしろ、ことによると労働党のゴードン・ブラウン首相が自民党と連立を組んで続投する可能性すらある。この人たちにとっては、思いもしなかった悪夢だろう。

*Slate特約
http://www.slate.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、「グリーンウォッシュ」巡り最終指針 ファンド

ビジネス

エーザイ、内藤景介氏が代表執行役専務に昇格 35歳

ビジネス

米ボーイング、4月商用機納入が前年比2機減の24機

ワールド

ロシア、潜水艦発射型ICBM「ブラバ」本格配備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中