最新記事

メディア

ツイッターはハイチを救えない

ハイチ関連の「つぶやき」があふれているが、価値のある情報が少ないうえデマが広がりやすい

2010年1月26日(火)17時41分
ジョシュア・キーティング(フォーリン・ポリシー誌編集者)

限界を露呈 ツイッターは既存のニュースメディアの代わりになれない

 昨年夏に行われたイラン大統領選後の暴動は、世界初の「ツイッター革命」といわれた。だとしたら、1月12日にハイチを襲った大地震は世界初の「ツイッター災害」だ。

 2004年のインド洋大津波や翌年のハリケーン・カトリーナ以降、メディアの環境は激変したが、ハイチ大地震ではそれが顕著に表れている。ハイチの最新ニュースを読み、共感を示し、援助の方法を調べるために、世界中のツイッターユーザーがサイトにアクセス。ハイチは瞬く間に、ツイッターの「人気のトピック」に躍り出た。

 この波に乗ろうと、ニューヨーク・タイムズCNNなどの既存大手メディアも、ニュースをリストアップするツイッター内の機能を利用し、現地からのアップデート情報を集めたコーナーを設けている。ツイッター熱は、地震発生からしばらくしても衰えなかった。地震から1週間以上経った1月20日には、首都ポルトープランスでの余震をめぐってアクセスが集中し、サイトが一時閉鎖された

偽の救援情報に問い合わせが殺到

 ハイチでの惨劇に関心がある人にとって、ツイッターがポータルサイトになっているのは明らかだ。信じられないなら、「#ハイチ」をクリックして3秒後に画面を更新してみるといい。

 だが、現地情報を知る手段として、ツイッターは本当に既存メディアに取って代わる存在なのだろうか。

 当然ながら、ハイチ関連のつぶやきの大半はニュース報道ではなく、被災者への共感の言葉や他のサイトの記事へのリンクだ。CNNのアンダーソン・クーパーサンジェイ・グプタなどの外国人記者が現地の印象をつぶやくこともあるが、それは報道というより番組内容の補足に近い。国境なき医師団や国際協力NGO「国際ケア機構」も自分たちの活動をツイッターで報告しているが、救助活動に直接関わる人以外は興味をもちにくい。

 しかも、ツイッターには負の側面もある。実際には行われていない救援活動などの偽情報があっという間に広がってしまうのだ。「ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)がハイチへの配送を無料にした」「アメリカ系航空会社が医師を無料でハイチまで搭乗させる」といったつぶやきのせいで、名指しされた会社に問い合わせが殺到している。

 ツイッターによって組織活動が効果的に行われるケースもないわけではない。たとえば、米空軍はネット上の圧力に押されてポルトプランスの空港での救援関連の航空機の離発着枠を増やしたが、ツイッターはこの運動に一役買っている

 だが、善意の読者を誤った方向に誘導するケースも、同じくらい頻繁に起きている。とくに有名人が絡む場合はリスクが高い。

 ハイチ生まれでニューヨーク在住のミュージシャン、ワイクリフ・ジョンは、救援活動をしながら祖国を回り、自身が運営するエール基金への義捐金をツイッターで呼びかけた(エール基金は地震直後、「人気のトピック」に入っていた)。

 ところがその直後、基金の不正経理問題と大地震のような大規模災害への対応能力に疑問が浮上。支援関係者の間では、エール基金のせいでより的確に危機に対応できる団体への寄付が減ったという憤りが渦巻いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国EVのNIO、「オンボ」ブランド車発表 テスラ

ビジネス

ユーロ圏住宅ローン市場は「管理可能」、ECBが点検

ワールド

タカ派姿勢にじむブラジル中銀、総裁は3%のインフレ

ワールド

豪4月失業率、4.1%に上昇 利上げ観測後退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中