最新記事

米軍

戦場の日々を愛し過ぎて

戦地への赴任を繰り返し、家族に安らぎを見出せなくなった兵士たち

2009年7月22日(水)16時34分
ダニエル・ストーン、イブ・コナント(ワシントン支局)、ジョン・バリー(軍事問題担当)

 ショーン・マクブライド米陸軍2等軍曹(32)は、家にいるより戦闘地域にいるほうが快適だ。戦場で脳内に噴き出すアドレナリンや「誰かに撃たれるかもしれないという恐怖」が心地いいと言う。

 子供を保育園に迎えに行ったりスーパーで食材を買ったりする家庭生活の細々した用事は好きでない。戦場から戻ったとき一番苦労するのは、「ほかの人とうまくやっていくこと」だと言う。

 アフガニスタンとイラクで任務に就いた期間は43カ月。アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンと戦っていたとき、当時の妻から離婚書類が送り付けられてきた。3年間の結婚生活が終わった。「いやはや」と言って、マクブライドは肩をすくめる。

 現在はアメリカ国内の基地に戻り、離婚経験のある27歳のエバンジェリン(愛称「スター」)と再婚しているが、陸軍第101空挺師団の一員として、戦地への5度目の派遣が予定されている。

 国外で任務に就いているとき一番恋しいのは何かと尋ねると、マクブライドはそこに妻がいるのもお構いなしに、改造して馬力をアップさせた愛車フォード・マスタングだと平気な顔で言う。この愛車をスピードを出して運転し、信号で隣に派手な車が止まったときは「どっちがホンモノか見せつけてやる」のだ。

 もっとも、車の運転もイラクのほうが楽しい。「道で何の制約も受けない。道路の支配者になれる......それに、招かれてもいないのに他人の家に踏み込める。その家の所有者になった気分だ」

 マクブライド2等軍曹は、兵士のなかの兵士だ。兵士の仕事を熟知し、それを何よりも愛している。米軍が有能な兵士をとりわけ必要としている今、マクブライドのような兵士が貴重な人材であることは間違いない。しかし若い男性が戦場を愛しすぎ、家庭生活で居心地悪く感じていいのだろうか。

 ジェーソン・ダッジ陸軍曹長(36)は、そうした「戦場を愛し過ぎる兵士」の1人かもしれない。あらゆる面で極端な男だ。毎朝きっちり午前4時25分~28分の間に出勤し、その数時間後に朝のジョギングをする。大抵15~25キロくらい走る。9メートル余りのロープを自分の両腕だけでよじ登るのに、10秒もかからない。

自分がやるべき仕事はイラクにある

 一番スムーズに仕事ができるのは直射日光の差し込まない暗い部屋の中。食事は1日1回しか取りたくない。「妻に言われて仕方なく、夕食だけは取る」と、ダッジは言う。軍での彼の役割は、戦地でドアや壁を爆破するための爆発物を準備することだ。

 同僚は国内勤務の職に異動したり軍を辞めたりしているが、気にはならない。自分にはやるべき仕事があり、その仕事はイラクやアフガニスタンにあると、ダッジは思っている。

「私の作った爆薬の不具合が原因で命を落とした兵士はこれまで1人もいない......それが自分の最大の手柄だと思っている」と、ダッジは胸を張る。「私がいなければ誰かが代わりにこの仕事をするだろうが、私のほうがうまくできる自信がある」

 戦闘地帯への派遣回数が増えるほど、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症する危険性は高まる。陸軍が08年春に行った調査によると、3~4回の派遣経験を持つ下士官の27%がPTSDを発症していた。派遣経験1回の下士官だと、この割合は12%になる。

 問題を軽くみるわけにはいかない。5月にはイラクのバグダッドで、軍のカウンセリング室を訪れた44歳の軍曹が銃を乱射し、同僚5人の命を奪った。3度目の派遣でイラクに来ていたこの男は数週間後に帰国の予定で、軍が自分をお払い箱にしようとしていると感じていたらしい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ休戦交渉難航、ハマス代表団がカイロ離れる 7日

ワールド

米、イスラエルへ弾薬供与停止 戦闘開始後初=報道

ワールド

アングル:中国地方都市、財政ひっ迫で住宅購入補助金

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中