最新記事

動物

イヌはオオカミから進化した最強のパートナー

Wolves Among Us

2019年5月17日(金)17時30分
マイケル・マーシェル

犬の人懐っこさも人間と共存するための「選択」だった可能性があるという DIGITAL VISION/GETTY IMAGES

<狩る側と狩られる側の関係から最強の絆で結ばれた「最良の友」へ――人間と犬の3万年の進化に遺伝学で迫る>

「人間は犬のおかげで生き延びてきた。犬は人間のおかげで生き延びてきた」

人類遺伝学の先駆者でベストセラーの著者でもある英オックスフォード大学のブライアン・サイクス教授はそう書いている。人間と犬、そして両者の歴史について豊富な知識を持つサイクスは、新著『ワンス・ア・ウルフ』でDNAと化石記録を掘り下げて犬の系図を解き明かした。

サイクスにとって、これは「どう猛な肉食動物が飼いならされるまで」というありがちな話ではない。「飼いならす側の話でもある。犬と同じく攻撃的な肉食動物の人類が、盟友になりそうもない相手とどうしてこれほど特別な関係を築いたのか」

犬との関係のおかげで、現生人類の祖先は他の人類を征服し、最終的には地球全体を征服した。人間と(犬の祖先である)オオカミが協力するようになった経緯について、直接の科学的証拠は乏しいとサイクスは言うが、「ネアンデルタール人が滅びて現生人類が生き残ったのは、(両者の移行期とされる)後期旧石器時代に重要な何かが起きたからに違いない」

人間と犬の共進化について、作家のマイケル・マーシェルがサイクスに話を聞いた。

***


――人間と犬はチームを組んでどのくらいか。

3万年かそれ以上だろう。

――犬と人間の絆は遺伝学を超える。

犬と人間との不思議な絆がこのテーマ全体を非常に興味深いものにしている。そのメカニズムの一部は科学的に証明されつつあるが、実質的な不思議さが損なわれるわけではない。

オオカミの群れと人間の集団の社会組織は驚くほど似ていた。どちらもハンターで状況を敏感に読み取ったが、オオカミのほうがはるかに敏感だった。飼い主はよく、自分の考え(そろそろ散歩の時間だ、など)が愛犬には分かると言う。これも狩る側と狩られる側だった頃の関係の遺産だ。オオカミにとってはわずかな振る舞いを手掛かりに獲物の群れから最も弱い者を選べることが重要だから。

――DNA研究の進展によって犬の祖先について明らかになったことで最も意外だったのは?

いろいろある。まず、遺伝的には犬は全てオオカミだけから進化してきたこと。次に、犬の大きさと外見の多様さはほんのわずかな遺伝子の変化でもたらされた可能性があること。そして社交性という人間の遺伝的形質は犬には反映されているが、オオカミには反映されておらず、「人懐っこさ」が犬の意図的な選択によっても進化してきた可能性だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

「ECB利下げ開始確実」とポルトガル中銀総裁、6月

ビジネス

ECBは利下げ急がず、6月以降は慎重に=ラトビア中

ビジネス

英中銀、利下げ待つべき 物価圧力の緩和確認まで=グ

ビジネス

米新規失業保険申請、1万件減の22.2万件 労働市
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中