最新記事

実は和食にもたっぷり 日本がアメリカに押しつけられた「デブ穀物」その実態とは

2021年10月25日(月)17時48分
平賀 緑(京都橘大学准教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

結果、トウモロコシは加工食品や動物性食品に姿を変えて間接的に大量消費されるようになり、現在の米国人は「歩くトウモロコシ」ともいわれるほどになりました。その名も『キングコーン』(アーロン・ウルフ監督、2007年)という映画を見ると、いかにトウモロコシが産業用に大量生産され、ありとあらゆる食品に入り込んでいるか、わかるでしょう。

ちなみに、最近までこのトウモロコシを世界一大量に輸入していた国は日本でした。そんなに毎日トウモロコシ食べてないけれど? と思う人が多いと思います。

reuters__20211025173819.jpg

焼きトウモロコシや粒が見える形でトウモロコシを食べることは少なくても、より多くのトウモロコシが肉や油、スターチや甘味料、その他の食品添加物として私たちの食生活に入り込んでいるのです。実は、日本人も調べてみたら身体の炭素の4割がトウモロコシ由来だったという実験結果もあります。

一見、和食に見えるメニューにどれだけトウモロコシが入り込んでいるか、わかるでしょう。私たちも、多くは米国産の「歩くトウモロコシ」なのかもしれません。

安くて高カロリー食品だらけの時代の到来

同じく米国で大量生産した大豆は、味噌や醤油を作るより、納豆を作るより、ずっと多い量の大豆が油と粕を生産する原料として使われています。大豆も食用油やいろんな添加物として多種多様な加工食品に入り込み、大豆粕は家畜のエサとして肉の大量生産に使われるようになりました。

さらに、大豆粕とトウモロコシの価格低下により、それらをエサとして肉や乳製品など動物性食品を安く大量に生産できるようになりました。かつて肉は、欧米でもときどき食べる程度の貴重な食べものだったのに、それがより安価に頻繁に食べられるようになり、ハンバーガーなどファストフードを含む外食産業の発展も支えていったのです。

戦前から戦後にかけての農業政策に支えられ、小麦、大豆、トウモロコシが大量生産され、それらを原料に食品製造業や加工型畜産が発展して、加工食品や動物性食品が大量生産されるようになりました。

加えて、それらを大量に流通するスーパーマーケットやコンビニという新しい形の小売業や、ファストフード店など外食産業があわせて発展しました。

books20211025.jpg『デブの帝国』いわく、「スーパーマーケットに並ぶ高カロリーのインスタント食品が、それまで以上に手の届きやすい値段になっていった。ますます余剰量が増えていく米国産トウモロコシからつくられる高果糖コーンシロップのおかげで、冷凍食品製造のコストは下がり、次々に商品がつくられた。TVディナーや、マカロニチーズの冷凍品はじつに安くなった。ファストフードの店では、客に出す一人前の量が多くなった。フライドポテトはぐっと味がよくなり、安くなった」(p.31)。

つまり、大量生産・大量加工・大量流通・大量消費の構造が形成され、「安くて、豊富で、おいしい高カロリー食品がいっぱいの時代が到来した」(p.31)わけです。

こうして、「肥満は国民的な病気」(p.6)と宣言されるまでの「デブの帝国」が出来上がっていきました。この過程で利潤を得たのは、農民や消費者だったでしょうか? むしろ、穀物商社や食品製造業、小売業、外食産業など、資本主義的食料システムを構成する産業群だったと思いませんか?

平賀 緑(ひらが・みどり)

京都橘大学准教授
1994年に国際基督教大学卒業後、新聞社、金融機関などに勤めながら「ジャーニー・トゥ・フォーエバー」共同代表として、食・環境・開発問題に取り組む市民活動を企画運営した。植物油を中心に食料システムを政治経済学的アプローチから研究している。著書に『植物油の政治経済学』(昭和堂)。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中