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不自然なヌード満載の『ラブ&ドラッグ』

ありきたりなラブストーリーに山ほどヌードが出てきても観客はどっちらけ

2011年11月18日(金)16時50分
ジェニー・ヤブロフ

作り手のエゴ ハサウェイやギレンホールが脱げば「芸術」という論理(11月19日公開) © 2011 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

 若い女性が胸に変なしこりがあるから診てほしいと医師に言う。彼女はブラウスのボタンを外し、ブラを外して胸をあらわに。だが医師の診断は、ただの虫刺され。

 神経質になり過ぎていたと笑い飛ばす彼女を見ているのは、医師と側にいるインターンだけではない。私たち観客もその胸を拝んでいる。そして続く約1時間、観客はアン・ハサウェイ(とそのインターン役のジェイク・ギレンホール)の裸体をもっと拝むことに──。

『ラブ&ドラッグ』はAクラス級のスターが出演しているが、いたってありきたりなラブコメだ。ギレンホール演じるジェイミーは、大手製薬企業の生意気な営業マン(インターンのふりをしていたのは医者に取り入るため)。ハサウェイ演じるマギーは、不治の病を抱えた自由奔放な女性で、ジェイミーに愛とは何かを教えてあげる。プレイボーイ生活を謳歌していた男がある日、運命の女性と出会い、人の愛し方を学んでいく──ありがちな展開だ。

 しかし監督のエドワード・ズウィックはそれ以上のものを狙ったようだ。マギーが胸をあらわにするシーンをカットしなかったことに彼の野心が表れている。

 今日のハリウッドの論理でいえば、ハサウェイとギレンホールが脱げば脱ぐほど、芸術性の高い作品ということになる。少し前までは、ストーリー的に必要のないヌードシーンで無名の女優がばんばん脱いでいた時代もあった。だが次第にヌードはヨーロッパ風なシリアス性を醸しだす要素として自画自賛すべき芸術のようになってしまった。観客に「君たちは芸術作品を見ているんだ」と念を押すかのように、ストーリーの展開を無視してまでヌードシーンが挿入される。

 別にヌードシーンが必要ないと言っているわけではない。同じくギレンホールとハサウェイが共演して脱いだ『ブロークバック・マウンテン』では、同性愛者の恥辱の感情や繊細で傷つきやすい心を描くためにセックスシーンがあったのは自然だし必要だった。逆にセックスシーンでヌードがないほうが不自然だろう。巧妙にシーツで隠されていたり下着姿でベッドから出てくる不自然もよくあることだ。

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