最新記事

BOOKS

毎年1000社ベンチャーが生まれる「すごい」国イスラエルの秘密

2019年1月31日(木)16時25分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<なぜ中東のシリコンバレーとして注目を集めているのか。イスラエルのハイテク産業を理解するカギは、国防軍の超エリート部隊と、国民の軍隊に対する見方にある>

正直なところ、『イスラエルがすごい――マネーを呼ぶイノベーション大国』(熊谷 徹著、新潮新書)というタイトルを見た時点では、いまひとつピンとくるものがなかった。

イスラエルに対しては「すごい」というよりも、「テロや戦争と背中合わせの危険な国」というイメージを抱いていたからだ。

ちなみに著者は、NHKで記者として8年間働いたのち、1990年からドイツ・ミュンヘンに拠点を移して欧州諸国についての取材、執筆を行っているというフリージャーナリストである。

そのような立場を軸に、本書の冒頭では"資源"に焦点を当てている。意外なのは、21世紀に最も重要な資源は、すぐに思いつく石油や天然ガスではなく、「知識」と「独創性」だと主張していることだ。

しかも、すでに世界中で知的資源の争奪戦が始まっており、知恵を武器として成長する国の代表選手として注目を集めているのがイスラエルなのだという。


 米国のシリコンバレーという名前は、日本でもよく知られている。カリフォルニア州・サンフランシスコに近いこの地域は、アップル、グーグル、フェイスブックなどITやハイテク関係の企業が集中する、イノベーション(技術革新)の源泉だ。(中略)
 だが中東に、もう一つのシリコンバレーがあることは、ITやハイテクに関心がある人を除けば、日本ではあまり知られていない。
 その名は、イスラエルだ。中東のシリコンバレー・イスラエルには米国のシリコンバレーほどの派手さはない。だが今世界中のIT関連企業や投資家が、この国に熱い視線を注いでいる。(11~12ページより)

その根拠のひとつとして挙げられているのが、2017年3月13日に流れた、イスラエルのハイテク産業の底力を示すニュースだ。米国の巨大IT企業として知られるインテルが、イスラエルの自動車関連ハイテク企業であるモービルアイを買収することを発表したのである。

このとき世界中のIT・自動車業界の関係者を驚かせたのは、153億ドル(1兆6830億円)という買収金額。これは外国企業がイスラエルで行った企業買収の中で最大の金額だったという。

だが、ここで気になるのは、インテルとモービルアイの規模の違いだ。インテルの2016年の年間売上高は、594億ドル(6兆5340億円)、従業員数は10万6000人。対するモービルアイの2016年の年間売上高は3億5800万ドル(394億円)なので、インテルの1%にも満たない。従業員数も750人なので、インテルの141分の1である。

これだけ差があるにもかかわらず、インテルはなぜモービルアイを買ったのだろうか? それは、モービルアイが自動運転に不可欠のテクノロジーについては世界的リーダーの立場にあるからなのだそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中