最新記事

ライドシェア

日本攻略が行き詰まったウーバーの新たな方針とは?

2017年12月8日(金)16時40分
森川郁子(東洋経済記者)※東洋経済オンラインより転載

ライドシェアサービスの世界最大手、ウーバーにとっても、日本市場の壁は高かった。当面はハイヤー・タクシーの配車サービスに専念する方針を明らかにした。写真は配車アプリの画面(撮影:今井康一)

自家用車で乗客を運ぶライドシェア(相乗り)の世界最大手、ウーバー・テクノロジーズが日本市場での方向転換を決めた。11月下旬、ウーバーのアジア事業を統括するブルックス・エントウィッスル氏が来日し、「アジアの諸外国同様、日本でもタクシーをパートナーにしたサービスを展開する」と宣言した。当面は現行のハイヤーとともに、タクシーの配車サービスに専念する。

この3年間、ライドシェアサービスの日本での普及を目指し、本社のチームが法律の専門家とともに、規制当局と日々交渉を行ってきたという。しかし、日本では規制緩和は進まず、タクシー業界からの厳しい反対を受け、交渉には手詰まり感が出ていた。このため、タクシー会社を味方に付ける方針へと改めたのだ。

toyokeizai171208-2.jpg

ウーバーのアジア事業統括、ブルックス・エントウィッスル氏は日本市場攻略の難しさを認めつつ、「ライドシェア実現はあきらめていない」と強調した(記者撮影)

「ライドシェアはあきらめない」

エントウィッスル氏は「ライドシェアはあきらめてはいないが、日本の規制当局はライドシェア解禁に対して慎重。一夜にしてできるものではなく、他国での成功例を用いながら、じっくり時間をかける必要がある」とあらためて日本市場攻略の難しさを語った。

ウーバーのサービス開発のきっかけは9年前にさかのぼる。ウーバー創業者のトラビス・カラニック氏らは、パリでタクシーがつかまらず苛立っていた。「こういうとき、すぐ車がつかまればいいのに・・・・・・」。帰国後、空いている自家用車とドライバーの時間を使い、移動したい人向けにすぐに配車を可能にする「ライドシェア」サービスを立ち上げたのだ。

そのサービスが今や、世界77カ国で利用が1日のべ1000万回に上る規模にまで拡大した。企業価値は約7.7兆円、GMの時価総額をすでに超えている。ソフトバンクも、ライドシェアサービスへの成長期待から、1兆円を超える大型出資を計画する。有望なユニコーン企業だ。

一方、ここ最近は本業とは別の面で話題となることが多い。今年1月、米国のドナルド・トランプ大統領が打ち出した移民制限への反対デモを、ウーバー社が妨害していると受け取られ、SNSでは「#DeleteUber(ウーバーを削除しよう)」というハッシュタグが検索上位に入った。

その後もセクハラ問題やグーグル傘下で自動運転技術を開発するウェイモとの裁判ざたが続く。6月には責任をとって創業者カラニック氏がCEOを辞任する事態にまで発展した。直近では、「安全上の理由」により、英国ロンドンでの営業免許が9月末で失効したり、顧客の個人情報の漏洩が発覚したりするなど、いまだに問題を抱える。

海外展開を進める中で、各国でタクシー業界による反対デモも起きている。中国の滴滴出行(ディディチューシン)やインドのOla Cabs(オーラキャブス)のような「現地版ライドシェア」の登場など、今後成長する上で乗り越えるべき壁は高い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政府、ファーウェイ向け半導体などの製品輸出許可取

ビジネス

米リフト、第2四半期見通し予想上回る 需要好調

ビジネス

米国株式市場=S&Pとダウ小幅続伸、米利下げ期待で

ビジネス

再送NY外為市場=ドル上昇、FRB当局者発言を注視
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中