最新記事

根回しで突破した菊のカーテン

インタビュー ザ・日本人

昭和天皇、渥美清、宮崎駿から
柳井正、小沢一郎、二宮和也まで

2010.01.21

ニューストピックス

根回しで突破した菊のカーテン

私は極秘裏に準備を進め、不可能を可能にした

2010年1月21日(木)12時12分
バーナード・クリッシャー(元東京支局長)

 62年にニューズウィーク特派員として日本の地を踏んで以来、昭和天皇とのインタビューを実現することが私の目標だった。

 その後、私は代々の首相をはじめ、日本の多くの著名人とインタビューを重ねたが、天皇に会うチャンスには恵まれなかった。そこで74年、日本に関する知識を総動員して、「不可能」を可能にする戦略を立てた。

 日本では、好ましい方向で合意を得るには根回しも重要だということを、私は学んでいた。

 75年10月に天皇が訪米するという記事を読んで、私は天皇とのインタビューにつながる道を見いだした。訪米を成功させなければ、という思いが日本中で高まる時期こそインタビューのチャンスだ。天皇は以前訪欧した際、反対デモにあっていた。

 「好ましい方向で合意を得る」ため、私はそれから半年間、多くの官僚や政治家に会い、説得を試みた。天皇のインタビューがニューズウィークに載れば、世界中のエリートや大衆の目に触れるので、天皇の人間性をアピールし、人気と敬意を勝ち取るうえで役立つと説いたのだ。

 他の報道機関から競争相手が現れるのを避けるため、私と会ったことを口外しないよう、全員に求めた。ほとんど誰もが、私の意見は名案だと思うが進言する立場にはないと語った。私は、意見を求められたら反対だけはしないでほしいと頼んだ。

 主要閣僚にも会った。福田赳夫副総理は、ニューヨーク・タイムズ紙やタイム誌との合同インタビューを提案したが、私は反論した。ニューヨーク・タイムズは日刊紙なので、速報性の点でかなわない。それに、アメリカの新聞は主に一つの都市でしか読まれないし、魚を包むのにも使われる。タイムのほうは、東京特派員が着任して日が浅い。

 宮沢喜一外相からは、インタビューに反対している官僚はいるかと聞かれた。外務省の黒田瑞夫情報文化局長だけが、私の考えを厚かましいと言っていると答えると、宮沢は「なんとかしよう」と言った。宮沢は訪米随行団から黒田をはずし、前局長の藤山楢一大使と交代させた。

 6月には私の願いがかなう方向で合意が成立していたが、最終決定は9月まで待つよう言われた。天皇の訪米は、75年9月30日〜10月14日の予定だった。

 だがその後、問題が発生した。宮沢によると、宮内庁の宇佐美毅長官が、ニューズウィークの取材には同意したものの、私ではなく編集長がインタビューしてはどうかと言っているという。

 数年前に私が書いた記事がまずかったらしい。外国ではほとんど知られていない日本の実力者を取り上げた記事だ。その中で私は宇佐美を「陰の天皇」と紹介した。これが彼の気に障ったようだった。

 私は約15年にわたって日本に関する正しい情報を世界に伝えてきたと、宮沢に主張した。日本が天皇インタビューから私をはずすなら、他の国への異動を願い出ると言った。

締め切りを1日延ばして

 宮沢は、宇佐美をなだめる方法を見つけてはどうかと言った。

 そこで私は、宇佐美に近い2人の人物の助けを求めることにした。1人は木村俊夫。前外相で宇佐美の親戚だ。木村は、私がインタビューして書いた記事を気に入ってくれて、娘の結婚式にも招いてくれた。

 私は、宮内庁の湯川盛夫式部官長も知っていた。日産の広報担当だった湯川の息子とはしょっちゅう会っていた。私と妻は、知り合いの政治家の娘と彼の見合いを画策したこともあった。

 木村と湯川は、宇佐美へのとりなしを引き受けてくれた。おかげで、宇佐美は私に対する反対を撤回。9月前半、インタビュー許可の知らせが届いた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中