コラム

上海市民の「賞味期限」は豆腐より短い──新たな流行語「新能源人」の意味とは?

2022年06月14日(火)19時57分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
終わりのないコロナ検査

©2022 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<やっと「事実上のロックダウン」が解除された上海だが、今もどこに出かけるにも72時間以内のPCR検査での陰性証明が必要とされる>

2カ月以上に及んだ上海のロックダウンがやっと解除された。ある70代の上海人の老紳士は家から出て、SNSの微信に自撮り動画でこう投稿した。

「私の家族は曽祖父の代から上海に暮らすが、自由に街に出られないのは上海の開港以来初めてだ! この身だしなみに無頓着な私を見てほしい。2カ月ぶりの外出にうれしさよりむしろ屈辱感を感じる。皆さん、これを歴史としてしっかり覚えておこう」

「大白」と呼ばれ、強引な感染者の隔離で市民に嫌われていた白衣の防護作業員すら、防護服に「全劇終(おしまい)」「くそゼロコロナ」と書いて不満を示した。

不思議なことに中国当局はいまだに「封城(ロックダウン)」という言い方を認めない。ロックダウンを始めた3月15日の記者会見でも、上海市政府の担当者は「上海はロックダウンしていない。ロックダウンの必要もない」と強調した。

解除した現在も同じように「上海市民の外出管理は政府の統一した要求ではなく、市民自らの自治による」と公言した。強制は一切なく、全市民が自主的に家に閉じ籠もっていたというのだ。歴史の罪人になりたくないから、政府は市民に責任を押し付けたわけだ。

ただ安心はまだできない。ロックダウンが解除されても、上海で公共施設や公共交通機関を利用するときは72時間以内の核酸検測(PCR検査)の陰性証明が必要──と政府は厳令した。企業や地域によっては48時間以内の証明を要求するところもある。

そのため、上海のPCR検査所はどこも長蛇の列。長時間列に並んで検測を受けた後、陰性証明を取得するまで7~22時間かかる。あっという間に有効期限が来るので、また急いで次の検査を受けなければならない......。終わりがないPCR検査は、上海人を品質保証期限が2~3日間の「新能源人(新エネルギー人)」にしたといわれている。48時間か72時間以内の陰性証明がなければ一歩も先へ進めない、という皮肉だ。

「上海人としての賞味期限は1丁の豆腐に及ばない。豆腐の賞味期限は5日間、上海人はたったの2~3日」という自虐的なネット投稿が、最近ひそかに受けている。

ポイント

核酸検測
ゼロコロナ政策にこだわる中国政府は、特にオミクロン株の急増後に大規模なPCR検査を国中で実施。1000回以上検査を受けた人もおり、検査キットを作る企業の利益が急増した。

新能源人
数時間ごとに指定の検査場所でPCR検査を受けて陰性証明を取得し、常にスマホの健康証明アプリの表示を「感染なし」の緑色にしないと安心して行動できない人間を指す言葉。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 5

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 6

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 9

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story