コラム

29歳天才クオーターバックの早過ぎる引退から学べること

2019年09月04日(水)17時00分

ラックはチームを3年連続プレーオフに導いたが…… ZACH BOLINGERーICON SPORTSWIRE/GETTY IMAGES

<輝かしいキャリアに自ら終止符を打った決断からビジネスマンが読み取るべき重要な教訓とは>

定年前や正式な契約期限切れの前に退職して、同僚や部下から「ブーイング」の大合唱を受けることを想像してみてほしい。

アメリカンフットボール史上最も才能ある選手の1人だったアンドリュー・ラックは、世間の猛烈な非難の声と共に輝かしいキャリアを終えた。スーパースターはなぜ29歳の若さで引退を決めたのか。

ラックはスタンフォード大学で抜群の実績を収めた後、NFL(全米プロフットボールリーグ)の2012年ドラフトでは全体の1位でインディアナポリス・コルツに入団。その才能とプレーに懸けたコルツは、チームのエース・クオーターバック(QB)であり、当時歴代ナンバーワンQBの呼び声も高かったペイトン・マニングをトレードに出した。

ラックは新人の年から卓越したプレーをみせ、3年連続でコルツをプレーオフに導いた。若手QBとしては、ほとんど前例のない快挙だ。

2016年には、チームと総額1億2200万ドルの5年契約を結んだ。しかし、ラックは度重なる負傷に悩まされた。肩、関節、腹部、腎臓......。17年はシーズンを丸ごと棒に振った。それでも18年には驚異の復活を遂げ、パス獲得ヤード4593、タッチダウンパス39本を記録し、カムバック賞に輝いた。

来る2019年シーズンは、念願のーパーボウル(NFL優勝決定戦)出場と全米ナンバーワンの獲得が期待されていた。ラックは2019年シーズン前の時点で負傷者リストに名前が載っていたが、開幕直前での若過ぎる引退表明はトランプ政権のどんな発表よりも衝撃的だった。これにはファンだけでなく、多くの元NFL選手からも厳しい声が相次いだ。

元QBのスティーブ・バーラインはツイッターでこう批判した。「これは擁護できない。シーズン開幕2週間前(の引退)は、チームとチームの仲間たち、NFLのファンに対する正しい行為ではない」

「退く勇気」を忘れるな

ラックは引退表明の記者会見で、けがと痛みのせいでフットボールへの愛情がなくなったことを認めた。あるインタビューでは、おそらくQBよりも高校の歴史教師になったほうがずっと幸せだっただろうと語った。ラックの引退は、アメリカで最も人気のあるスポーツの本質をめぐる議論を巻き起こした。フットボールは暴力的で危険な競技なのか。選手たちはローマの剣闘士級の痛みに耐えなければならず、残りの人生を棒に振りかねないことを自覚しているのか。しかし、ラックの早過ぎる引退は、アメリカンフットボールの世界にとどまる問題ではない。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story